17 リツ

2か月後

とんでもない事態になった。


「リツ!ネットニュース見ろ!」


LAにいた俺にエージェントから連絡が来た。





『人気バンドVoリツ、美人モデルと結婚秒読み?!妊娠も?!』




血の気が引く音がした。


俺はてっきり『もてあそばれた』と書かれると思っていた。結婚?妊娠?

とにかくすぐ帰国しろというのでレコーディングを中断して向かった。






「これは事実なのか?」


事務所は大騒ぎだった。


「付き合ってはいたけど、もう別れたし結婚の話は出ていない。妊娠は分からない」


「心当たりないのか?」


あるっちゃあるが…


「あるけど、それは向こうが勝手に俺に股がって…」


「そんなこと通るワケないだろ!お前ガードが甘いんだよ!もうちょっと自覚しろよ!」


うーん、確かに…


「ハメられた可能性もあるってことか?バックに何か居るんだったら、さらに面倒なことになるぞ」


うわーーーーー!とマネージャーは頭を抱えた。


俺、もしかして音楽出来なくなったりする?




すぐさまココさんの店で話し合いが持たれることが決まった。この店ですると、彼女が苛立つ可能性もあったが、マスコミを完全にシャットアウトできて盗聴、盗撮も安心な場所はここしかなかった。





久しぶりに合う彼女は変わったところはなく、一人で来た。彼女のエージェントからは事前に謝罪と彼女の解雇が知らされた。相変わらずハイヒールだった。妊娠してるのか?


「何であんなこと言ったの?」


「妊娠の可能性はあるかもしれないでしょ?」


「あるかも?検査してないのか?」


「……」


「ねぇ、あのオバサンと付き合ってるの?」


「そんなんじゃないよ」


「じゃあなんでまたこの店なの?繋がってるんでしょ?」


「ああ、繋がってるけど、そんなんじゃないし、話せる場所がこの店しかなかったんだ」


「意味わかんない」


「検査受けてないなら、受けてくれ」


「嫌よ」


「どうしたいんだよ」


「あのオバサンと別れて」


「だから別れるも何も、付き合ってないから」


「じゃあ、会わないで」


「それでどうするの?もう復縁できないよ」


「結婚も条件の一つよ」


「そんなの上手くいくわけないだろ?」


「じゃあ、あることないこと言いふらして、メチャクチャにしてやるから!」


「頼むよ、大人しく取り下げてくれ。手荒なことはしたくないんだよ」



ガチャ



エージェントのスタッフ数人と、顧問弁護士が入って来たのはその時だった。


「リツさんのエージェントの顧問弁護士です。検査を受けていただけないなら、法的に対応させていただくことになります」


「何よこれ……」


彼女は半ば強引にスタッフに連れられて行った。


「リツ!」


「ごめん……」


ちゃんと愛せなかった俺が悪かった。







「終わったよ」


俺は寝室に居るココさんにLINEした。


「分かった」


こういうことはたまにある。

だけど『熱愛発覚』くらいで、お互い『ともだち』で通すかノーコメント貫くか。今回みたいに結婚や妊娠にまで発展することはなかった。


「ごめんね、巻き込んじゃって」


「平気よ。こんなの平和なほうよ」


「そうなの?」


「日本刀振り回す人とかいるから」


予想以上の修羅場をくぐってるね。


「で、原因は何なの?私?」


「違うよ、俺の愛が足りなかっただけ」


「そう」


ココさんは何の感情も読み取れない声でそう言うと営業の準備を始めた。

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