リツ

8

風呂から出ると、アオイさんが食器を洗ってくれていた。


「ありがとうございます」


「はーい」


「アオイさんはどうやってこの店に来たんですか?」


俺はタオルで髪を拭きながら、冷蔵庫から炭酸水を取り出す。


「マネージャーが連れてきてくれた。リツくんは?」


「俺も事務所の人が連れてきてくれました」


「随分仲良さそうだけど長いの?」


「3年くらいかな?日本に戻るたびに泊まってるし、俺、ココさん好きなんですよね」


「そういう関係なんだ」


「それがナイんですよねー」


カウンターに座り、グラスに炭酸水を注ぐ。


「そうなの?」


「俺はいいんですけど、ココさんは旦那さん居るし」


「やっぱそうだよね」


「でも、一回本気で迫ったんですよ」


「おぉ!それで?」


「そしたら『ああそうか、リツは私とそんな薄っぺらい関係になりたいんだな!わかったよ!いくらでもやってやるよ!』ってパジャマをバサッと脱いで」


「マジ?!」


「そん時のココさんの体がゴージャスで飛び付きそうになったけど、ここで行ったら終わるなと思って抑えました」


「そだねー…」


「パジャマ着せて、2時間謝り続けました」


「そりゃ大変だったね」


「キスくらいなら許してくれるかなーってチャレンジしてるけど、ガードは硬いですね」


「懲りないね。ココさんって、いくつなの?」


「もうすぐ還暦らしいです」


「それはウソだろ」


「『あなた達は息子みたいなもの』ってよく言ってますけどね」


「俺と変わらないんじゃないの?」


「アオイさん、いくつですか?」


「37」


「俺より7コ上かー」


「ただいまー」


あ、帰ってきた。

俺はココさんさえその気になれば、いつだって受け入れる準備は出来てる。でも、ココさんの言う意味もわかる。そういう関係になりたいってことは、ココさんの大切なものを俺が大切に思っていないって事だ。それに、いつか別れが来る関係になるってことでもある。ずっと一緒に居たいってことなの?それはそれで光栄です。


「パン屋開いてた?」


「うん、美味しいの買ってきたよ」


そう言って親指を立てるココさんは

やっぱ可愛い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る