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「腹へったなぁ。焼きそば食べたい」
「はいはい」
俺たちはカウンターに座った。
坂田さんはまるで自宅にいるかのような寛ぎ様で、その女性もまるで家族のように応対する。
「坂田さん…ここは…」
「友達の家じゃないよ?お店だから」
坂田さんは不思議そうな俺の顔を見てクスクス笑っている。
「あっ、アオイさん!?私ファンです!嬉しい!」
「あ、ありがとうございます」
俺は女性とカウンター越しに握手した。
「初めての人はビックリしますよね。一応、飲食店なんです。でも、お店っぽくしたくなかったから、全面改装して家っぽくしてもらったんです」
「へぇ〜、面白いですね」
「奥には寝室とバスルームもあって、ちゃんと家として機能するんだよ」
「じゃあ、やっぱり家じゃないですか」
「そうだね、友達の家でお金取られる感じかな」
「なんか人聞き悪いわねぇ」
「ここに住んでるんですか?」
「いえ、自宅は別にありますよ。でも、週の半分は泊まるから、半分住んでるようなものね」
「なんか、不思議だなぁ。落ち着く」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
女性はそう言うと、切った材料をフライパンで炒め始めた。
「面白い店だろ?この人はココさん。この店のオーナーで、一人で切り盛りしてるんだ」
それでね、と言って、坂田さんは俺に向き直った。
「この店には一つルールがある。ここで見聞きしたことは誰にも言わないこと。いいね?」
「え?どういうことですか?」
「ここはね、知る人ぞ知るサロンなんだよ。正式名はSalon de Coco。業界や財界の要人が利用して、いろんな情報が交換される。週刊誌もここではオフレコだ」
「え?週刊誌も?」
「ああ、週刊誌にとってもここは価値ある場所なんだ。ここでのネタは書けないが、他のネタを仕入れたり、極秘でインタビューや面会ができる貴重な場所なんだ」
「へぇ…」
「アイドルのデートなんてしょっちゅうだよ。アオイも困ったらこのお店を使えばいい」
あー、だからちょいワル親父の顔したんだな。坂田さんだって奥さんいるのにね。まあ俺も人の事言えないケド。
「はいどーぞ」
「いただきます」
坂田さんが旨そうに焼きそばを食べる。その焼きそばも、ほんとに家で出てくる焼きそばだ。俺も腹へったなぁ。
「何か食べるものありますか?」
「冷やし中華始めましたよ」
「いいっすね!それお願いします」
海外ではまず食べられない。
具材もハムとカニかま、たまごにキュウリ。お家仕様だ。甘酸っぱいタレが旨い。なんだかんだ言って、やっぱりこういうのが食べたいんだ。
「あー、なんかほっとする。旨いなぁ」
「良かった」
そう言って優しく笑うココさんは、大人の女性だけど可愛らしい人だ。ハッキリ言って俺はこういう人好みだ。
がっつり食って、酒も飲んで、いい気持ちになったところで客が増えてきた。そう言えば見たことのある人がカップルで来ていたり、隅でワケアリな様子で話し込んでいたりする。
「次行こうか?」
坂田さんがそう言って席を立った。
俺はもう少しココさんと話したかったけど、忙しくなってきたし、素直に従って店を出た。
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