記憶の足跡

 久しぶりに、昔頻繁に使っていたSNSにログインしてみた。 

 随分と前に過疎化したSNSは、もう誰も更新していなかった。

 インターネットと言う氷に閉じ込められた、まだ大学生だった頃の記憶が溶け出してくる。

 はじめて付き合った男の記憶と共に。

 子どものような文章が画面に表示されるが、その日記はきっと誰が読んでも楽しそうに感じるだろう。

 確かこのSNSには仲間内で楽しめるコミュニティや、自分のページに訪れた人を教える足跡機能もあった。

 誰もいないSNSのお知らせのページにそれらの通知が来ている。

 なんてことだろう。気まぐれにログインしたのに、これだけ過疎化しているSNSなのに、僕の足跡のページには、つい最近のログイン記録で君の名前があった。

 君の懐かしいハンドルネーム。

 大学を卒業して以降、遠距離が耐えられずに破局した君。

 好きだったのに、確かに愛し合っていたのに、互いに疑って信じることができなかった、大好きな君。

 誰もいないSNSに君だけに表示される日記を書いた。

『会いたいね』

 これを君は見てくれるだろうか。

 期待を込めて、僕は君のページに足跡を残した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BLショートショート作品集 メバチバチコ春木 @okaeri-d-m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ