第3話 西方の守護者
「閣下が檄を飛ばす? えっ? 士気下がらない?」
「さっきからきっつい事ばっか言いますね、エミリアさん」
「心底嫌いだから」
「端的すぎでしょ、うちの最高指揮官ですよ?あの小さいの」
「普段から仕事しないで、ああいう時ばっかりしゃしゃり出てきたって、苛ついてくるだけよ。何かこの間私、白髪があったんだけど?私まだ20も半ばなんだけど?ひどくない?ねえ?精神的苦痛で軍法会議にあいつ上訴したいくらいなんだけど?」
「落ち着いて下さいな、私に言ったって何も出来ませんから・・・無駄ですよ?時間の」
「最近あんたもストレス源の一環な気がしてならないのよね・・・それも構成主体で」
「何のことでしょう?」
エミリアとその部下は、軽口を叩き合いながらグレンが居る場へと向かう。
グレンは今か今かと出撃を待つ、西方軍の大勢の将兵たちの前に姿を表した。
髪とヒゲを整え、重装の鎧兜を羽織り、幕僚たちを両脇に従えたその姿は正しく歴戦の❝大将軍❞であり一軍の支配者である❝西方軍総統❞と呼ぶに相応しい闘気を身に纏っていた。
「我が精強なる西方軍の諸君!同盟の狙いはこの地だ!お前たちが祖先より受け継ぎ、血と汗を流しながら今日まで守り抜き、開拓してきたこの豊かな大地を!愚かにも奪い取ろうと、目を血走らせて目と鼻の先まで来ているぞ!」
「西方の戦士達よ!!答えよ!!お前達の大地を、家族を、歴史を踏み躙らんとする者達に!!お前達は一体何を持って報いるべきか!!」
グレンは西方軍に問う
「死だ!!」
「ぶち殺せ!!」
「一人残らず血祭りに上げたらァ!!」
❝同盟❞への凄まじい怒号が上がる。
「西方の勇者たちよ!!答えよ!!西方軍の!!我らの流儀とは何だ!!」
「侵略者には死を!!」
「侵略者には死をォ!!!」
「侵略者には死をォォ!!!!」
「その通りだ!!皇國の勇者たちよ!!!お前達の!!皇國の正義の名の下に!!!薄汚い山賊共に天誅を食らわせてやれェ!!!お前達にはこの❝戦闘龍❞グレンがついているぞ!!!」
「ウオオオオオオ!!!」
「さあ行くぞ!!皇國の勇者達よ!!出陣だァ!!!」
グレン将軍!グレン将軍!!グレン将軍!!!
グレン将軍!グレン将軍!!グレン将軍!!!
グレン将軍!グレン将軍!!グレン将軍!!!
グレン!
グレン!!
グレン!!!
エミリアの辛辣な予想とは裏腹に、一瞬で西方軍将兵の士気を爆発的に引き上げたグレンは、増援軍の先頭に立ち城塞の城門から馬で駆け抜けていく。
その背後を追い、膨大な数の軍勢がグレンに続いた。
「なに?アレ・・・怖」
「我らが総統です」
「流石に豹変しすぎじゃないの?影武者でしょあれ」
「あんな小さいの、何人も居ませんよ」
「えっ・・・私らも行かないといかんの?あの後に続いて?」
「そりゃそうでしょ、あんたうちの中隊の中隊長でしょ、待ってますよ?うちの衆ら」
「ええ・・・」
「行きますよ、グツついてないで」
「はぁい・・・」
渋々エミリアも軍勢の後方を追っていった。
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