第一章 怨嗟の声
第4話 千人将グレン
当時20歳のグレンは、千人将と呼ばれる階級にいた。
千人将とは文字通り、千人部隊の指揮官である。
部下である百人長10人を小隊長とし、それを千人部隊としてその指揮をする立場にある。
そして千人部隊を五つで大隊と呼ばれ、グレンはその大隊の第二中隊長という役職に付いていた。
皇國軍千人将として、皇國東方軍・第三軍団・第五大隊・第二中隊長、それが当時の彼の立場であった。
グレン率いる第二中隊の小隊長の顔ぶれを見ると、10人中7人が彼よりも年上であった。
20代半ばから40手前まで
年下の上司に、遥か年上の部下
一般社会であればやり難い事この上ない年齢構成である。
が、しかし軍隊では階級こそが全てであるので、そんなことを言っている場合ではない。
そもそもそんな事を、一々気にするような状況ではなかった。
グレンは前線指揮所にて、部下の筆頭小隊長であるガランと第二小隊長のエレナとこれからの方針について話していた。
「いやな?只の確認なんだけどよ?俺たちは、あとどれぐらいここに居れば良いんだ?」
ガランが疑問をぶつけている。
当初の予定ではとっくに敵軍とぶつかっている筈だったが・・・
「俺に聞かれたって知らねぇよ、上に聞いたって帰ってくるのは“待機”それだけだ。準備だけ、ちゃんとやっとけってよ」
「そう指示を受けてから、もう2週間近くここに留め置かれていますけど・・・」
エレナも今の状況に辟易としているようだ。
この二人はグレンが百人長の頃からの生え抜きの部下である。
よって、ほかの者たちが聞きづらいことを代表して現状確認を行いに来たのだが・・・
「今は戦闘が小康状態で落ち着いとるだろ?うちと他の戦隊長とで意見が割れてんだよ。」
「何を?」
「現状維持か?それとも戦るか?」
現状を整理する
一ヶ月前に帝国軍との間で大規模な戦闘が勃発した。
双方共に大きな被害を受け、共に前線指揮所にまで後退し、2週間前より睨み合い状態が続いている。
小規模な衝突は起きた物の、大きな動きはなかった。
当然ながら双方においてこの現状を打破すべく、続々と増援が送られてきた。
我が皇國軍としては、この皇國東部中央を獲られては今後の国防方針に致命的な亀裂が生じるからだ。
東部中央を取られると、そこから南東部及び北東部にまで帝国軍の浸透を許してしまう恐れがある。
国土の1割強を失う事になるのだ。
「まぁ、俺としちゃあ戦んねえとしょうがねえと思うがよ?上が決めかねてんだよ」
「何をそんなに迷うんだよ?・・・」
「内の大将に配慮してんだよ」
「・・・ヴェルムの大将か」
「公爵家の嫡子ならそれらしくして欲しいんだとさ。わざわざ個人的に呼び出してまで言わんでも知っとるわそんなもん。俺に言わねぇで本人に言えや、直によクソが」
「そんなもん恐れ多くて言えるわけねえだろ 」
「公爵ってのはあくまで“外”での身分だろ。ここは軍であいつも軍人だぞ?それなら強権的にでも止めろや、怪我して欲しくねぇなら、わざわざ大隊長になんぞ据えるなや」
「そりゃあ大将が軍に在籍している内はそれでも通じるけどよ・・・いつかは軍を離れるんだからその後が怖いだろ、妙な恨みでも買ったらって・・・後の人生をどうしても考えちまうだろ」
“この男もずいぶんと丸くなったものだ”
ふとグレンは思った。
つい去年までは、何事にも真正面からぶつかっていくような性格だったこの男が・・・
所帯を持つと男は丸くなるとは聞いてはいたが・・・この男の場合はそれが顕著に現れていた。
“子供が出来るとこうも変わるか?・・・”
半年ほど前に一児の父となったガラン百人長は以前の勢いは影を潜めていた。
“アレだけイケイケだったのになぁ・・・”
「隊長、我が戦隊長はどうお考えなのですか?」
郷愁に浸るグレンに対し、エレナが口を挟む。
話が進まないとの判断だろう。
「俺と一緒だよ。」
「“破砕”ですか?」
「そう・・・だから俺らがここに呼ばれたんだ」
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