第36話【不思議な香り①】B面
学校を出てすぐに俺は、
「なんか、うまくコントロール出来てたみたいだな。驚いた」
と言った。
「うん。実は自分でも驚いてる。昨日は倒れるくらいパニックだったのにね」
古村は苦笑いをしながら言った。
「適応力、ハンパないな。頼もしいよ」
本心だった。俺の中で、こんな頼もしい子が俺の彼女だと思うだけで嬉しくなってしまった。
「そうでしょ!私も問題解きながらあまりにも冷静な自分に感心したわ」
古村はドヤ顔で言った。
「俺さ・・・このまま古村がこの能力に振り回されたらどうしようってずっと考えてた。なんか申し訳ない気持ちでいっぱいになってた」
俺は古村のドヤ顔を見て安心して、つい、昨日までの気持ちを伝えてしまった。古村がツッコミを期待していたのは分かっていたのに、どうしても本心を伝えずにはいられなかった。
「えぇーーー?そんなに悩ませちゃってたの?ごめん!大丈夫だから。そりゃ慣れないことだらけでどうしようって思ったのは確かだけど。新村、言ってたよね?悪いことばかりじゃないって。今日ね、私、その言葉の意味がホントに分かったの。私が謝った時に誰も何も言わなかったけど心の中ではちゃんと聞いててくれて答えてくれてた。言われなくても相手の思ってることが分かるのは今日みたいな時には有難いなぁって思ったし。私は大丈夫そうだよ。昨日までは自信持って大丈夫とは言い切れなかったと思うけど今日はちゃんと言える!」
古村は一気に、そして必死に言ってくれた。
「そう言ってもらえると助かる」
古村が必死に伝えてくれた言葉に俺はたった一言しか答えることが出来なかった。古村の言葉が嬉しくて、気持ちが軽くなって、力が一気に抜けていくのが分かった。そんな俺を見て古村は、優しく、
「大丈夫だからもう悩まないでね」
と言ってくれた。
「分かった」
俺は目が熱くなるのを感じて、必死に堪えた。こんなところで泣いたら絶対怪しいからな。俺は、泣きそうな顔を笑顔に変えた。古村はそんな俺を見ながら微笑んでくれた。
「今日は、このまま帰るね。母親が心配してるのも聞こえちゃったから。元気になったアピールだけはしておこうかなって」
古村がそう言うから、
「おう。気を付けてな。また明日」
と心の動揺に気付かせないように言った。古村は、そんな俺を見ながらニヤリとして、
「新村も悩みながら歩いて躓かないでね。で、明日は日曜ですけど?」
と楽しそうに言ってきた。
「あっ!」
俺は曜日感覚すらなくなってたくらい余裕がなかったのかと自分でも驚いた。
「真面目ねぇ♪明日も学校行くんだ♪私は休むけど」
古村は楽しそうにツッコんできた。
「…」
『こ~む~ら~!』
俺は古村をジッと睨んだ。睨まれているのに古村はまだ楽しそうだったのが悔しかった。
「また来週ね♪」
古村はそう言うと手を振って交差点を左に曲がって走り出した。
『言い逃げも楽しい♪』
角を曲がった後の古村の心の声が聞こえて来て、俺は取り残された後も悔しさが残っていたが、同時になんだか楽しくもあった。おそらく俺がまだ悩んでいる気持ちは古村にも伝わっていたはず。それなのに、明るく茶化してくれる優しさに俺は感謝していた。古村の思いやりを無駄にしてはいけない。俺も気持ちを切り替えなくてはと改めて思った。
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