第33話【親の心①】B面

 翌日、昨日の放課後テストの結果がいつものように貼り出されていた。

まだ古村は登校していないようだったが、その結果を見て、古村が動揺するのは分かっていた。俺の次に名前が書かれていたのは、いつもの英田ではなく古村の名前だったからだ。


その結果を見ながら、同級生たちは落ち着かない様子だった。上位二十人のメンツはほぼいつも同じだったが、古村が書かれたことで当然誰かひとり、名前が消えたのだから、消えた奴は心穏やかではない。他にも毎回書かれていない奴らまで二位に書かれている奴は誰だとザワザワしていた。


 いつも思うがこの学校の生徒たちは異常なくらい成績を重視している。前に古村が言っていたが、この学校で劣等生でも他の学校に行けば上位だって狙えるくらいの実力はあるらしい。それなのにこの学校での上位にこだわる生徒があまりにも多い。だから、そこから名前が消えると言うことは相当プライドを傷つけられるということでもあった。


 古村が登校してきたのを感じた俺は、廊下で古村を待つことにした。古村はまだ昨日の放課後テストの事を考えていた。それは、後悔にも似た嘆きだった。そんな心の声がどんどん近付いてきて、俺は古村の姿を見る前に大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


 古村が、いつものように掲示されている場所には立ち止まらずに教室に来てくれたらいいのにとさえ思っていた。だが、俺の願いは儚く散った。古村はいつも通り、その場を通り過ぎようとしていたが、横目で結果を見たようで、その場に立ち止まってしまった。足がガクガクしているのは俺の位置からでも分かった。俺はそっと古村の傍に行き、


「おはよう!」


と声を掛けた。ちょうど古村の真後ろからだった。俺は出来るだけ明るく言ったつもりだったが、古村は今にも泣きだしそうな顔をしてこちらを向いただけだった。


『大丈夫?』


俺は心の中で聞いた。


『大丈夫…じゃないかも』


古村は答えた。


『とりあえず教室に行こう』


と俺が言うと。


『うん。そうだね。教室に行こう』


と単に俺の言葉を復唱するかのように言った。


 教室に入ると案の定、一斉にドア側に視線が集まった。ホントに異常な学校だと俺は改めた感じた。無掲示だった生徒が上位に入ることがそんなに恨めしいのか?それとも意外なのか?


『古村は何も悪いことしてない。自分を責めたり後悔したりしないで』


俺はそう伝えながら、やはり書いていいと言ってしまったことに後悔していたのかもしれない。


 その日一日、古村は落ち着かない様子だった。それでもなんとか一日の授業が終わり、残すは放課後テストのみになった。実は俺は一番このテストが心配だった。昨日のように他の生徒から答えが聞こえて来るのは分かり切っている。


古村はその時、どうするのか予想もつかなかったからだ。自然と俺は緊張してきてしまった。

 「始め!」の合図で古村もクラスメイト同様にテストを表にしたのは分かった。俺も問題を解き始めた。半分くらい解いた時、古村が座った状態で真横に傾いていった瞬間が視界に入って来た。そして、いきなり教室にドスン!という鈍い音が響き渡った。

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