第31話【時期】

 キープする条件。

自分で気付く。

親から教わる時期。

ルールを守らなくては能力が絶える。


さっき、母親から出たワードの中で俺の中に疑問が生じているものだ。


 以前、親戚が集まった時に、ある親戚が集まりに来なかったことがあった。あとから大人同士で話しているのを盗み聞きした時、気になることを言っていたのを思い出した。


「あいつがまさか時期を間違えるとはな」

「俺より絶対にミスしないと思ってたやつがなぁ」

「あの家はもう能力は復活しないらしい」

「俺たちも気を引き締めよう」


母親から出たワードの中にあった【時期】という言葉があった会話だ。あの時の会話と今日の母親から言われた言葉は同じことを言っている気がした。


『時期ってなんだよ。自分で分かるって何がだよ。ルールを守らないと能力が絶えるってどういうことだよ』


俺は、能力が絶えるなんて今まで想像もしてことがなかった。もともと能力がなかった母親も、一度備わったものが一生ものじゃないなんてことも今まで一度だって言われたことがなかった。もしかしたら俺は古村を、とんでもない環境に置いてしまうんじゃないかと急に不安になった。


 俺が不安になっているのと同じ頃、古村もまたこの能力のことで不安と闘っていたことに、俺はまだ何も気付いていなかった。今まで考えたことはなかったが、心の声が聞こえる範囲みたいなものがあるのかもしれないとふと思った。家に居て、古村の心の声はまったく聞こえない。聞こえる範囲はそう広くないのだろう。


 さっき母親が言っていた言葉も引っかかる。古村は俺以外の心の声も聞こえるようになるのか?俺の心の声が聞こえるようになっただけで動揺していたのに、俺たちと同じように聞こえるようになる日が来たら、そりゃ一人では抱えきれない不安が襲うだろうと予測も出来た。


 とはいえ、この先ずっと付き合う覚悟がなかったらと言われても正直、今はずっと一緒に居たいと思っているし、それを覚悟だと言うなら、とっくに覚悟は出来ている。それは古村も同じだと信じてる。でも多分、母親が言った覚悟と言うのは、もっと核心的な何かなのだろうと言うのはあの言い方からも想像出来た。今、まさに俺がこの能力について色々知らなければいけない【時期】なのかもしれない。


 俺は、何かに悩んだり躓いたりすると地下に行って心を落ち着かせることがある。俺の家の地下には代々守られている植物の木がある。花を咲かせるわけでもなく、枯れるわけでもなく、いつ行っても同じ状態の木。この木の根は敷地内全体に広がっていると昔、父親から教えてもらったことがあった。この木がもしも枯れてしまったら、この家は土台を失って、崩れてしまうとも聞いた。


『そう言えばあの時、父親は、ルールさえ守って生活していればこの木はずっと元気なんだ。悩んだり、躓いた時にはこの木にその思いをぶつけると元気になれる。木は私たちを守り続けてくれているからなって言ってたっけ。この木の存在と俺たちの能力って関係しているのかもしれないな』


俺はふとそう思った。そして、そんな俺の釈然としない気持ちを今日もこの木にぶつけて気持ちを落ち着かせた。

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