第28話【告白したら付き合いが始まるの?】B面

 俺はどうにかこの沈黙を破りたいと考えていた。あまりにも長く感じた沈黙に自分もちゃんと古村に伝えなくてはと思っていた。


「やっぱそっか…古村は俺のことが好きなんだな。これでようやく謎が解けた」


そう言ってしまったらなんだか気持ちが軽くなって来た。あとは俺の気持ちを伝えるだけでいいんだからと一人で解決したはいいが、どう言えばいいのかが全く分からなかった。


「とりあえず私、なんだか告ったみたいなんだけどさ。サラッと流されたのかな?」

「あ、いや。流したわけじゃないんだ。多分、俺も古村のことが好きだから。お互い愛情があればこの能力は引き継がれるんだって分かって納得できたって言うか」


まだどう言えばいいのかまとまってなかったのに古村が先に話し始めて俺は正直焦って答えてしまった。


「そっか。お互い愛情があればねぇ」


古村は何か意味ありげに俺の言葉を繰り返してきた。


「うん。やっぱ今日ここに連れてきて話が出来て良かったよ」


俺もつい古村に同調するように言ってしまった。


「だね。謎が解決できるとすっきりするもんね」

「あぁ。ありがとうな、来てくれて」

「いえいえ、どういたしまして・・・で、何?この展開?」

「ん?何って?」

「おかしいでしょ?お互いサラッと告って、サラッとめでたし、めでたし・・・みたいな流れ」

「なんで?」

「えっ?何?おかしいのって私?いまどきってこんなアッサリ告るのが普通なの?」

「さぁ?俺、誰にも告ったことないし付き合ったことないし。分からないよ」

「私も分からないけどさ。なんか、違う気がするんだけど…」

「えっ?じゃあ、どうすればいいの?告ったら付き合いが始まるの?」

「いや・・・どうだろう?どうすればいいんだろう…」

「てか、付き合うってそもそもどんなだよ」

「…」

「…」


テンポよく会話しているようで、実は何も中身がない会話を一気にした俺たちはまた黙り込んでしまった。

心の中もお互い、真っ白だった。しばらく沈黙が続いたあと、


『そうなんだよ。付き合ったことないから告った後のことなんて私の中では妄想大王に任せていた知識しかないんだよ。こいつに任せていると私は襲われちゃうんだよ。そうは絶対にならないから、どうすればいいのか分からないんだよなぁ』


と古村の心の中が聞こえて来た。


『自然でいいんだ。今まで通りでいいんだよ!』


俺は何度も繰り返した。


「そう!今まで通りでいいんだってば!」


声に出してそういったのは俺ではなく古村だった。俺は正直、古村のこの言葉に救われた気がした。そして、


「そうだよな!今まで通りでいいんだよな!」


と古村のあとに続けて言った。俺の言葉を聞いた古村は少し複雑だと思っていた。人生初の告白をしたのに今まで通りでいいとは思っていなかった。付き合うというものがどんなものなのかと必死に考えていた。だから俺は、


「なんか、悪かったな。変なこと言っちゃって」


と言った後、


「でも今まで付き合う前の段階で心が読み合えた事例を知らなかったし、両親も詳しく教えてくれなかったから俺自身ずっとモヤモヤしてて。両親も時期が来れば自分で分かるって言うだけで何も教えてくれないしな」


と続けた。古村は黙って聞いていてくれた。俺はさらに続けた。


「今日、古村が来てくれて色々考えてくれて何となくだけどこの力が引き継がれる過程みたいなものが分かりかけて来た気がする。ホントにありがとう」


古村は何か言わなくてはと必死に考えていたのが分かったが、俺はさらに、


「俺さ、今まで人と関わらないようにして生きて来たんだ。前に古村が言った通り、本音が分かるから関わるのも疲れるって言うか、本音で生きてる奴なんてほとんど居なかったからな。わざわざ疲れる付き合い続けるより一人の方が気が楽だって思えて。誰かとつるんでてもつるんでなくても結局いろんな声が聞こえて来てたのには変わりないけど、関わらない方が圧倒的に自分のことを言われることは少なくなるからな」


と今までの俺を少しでも伝えたいと思ってしまい一気に話してしまった。話しながら、過去のことが頭に浮かんでいた。それをちゃんと古村に伝えなくてはという思いになっていた。


 古村はまっすぐ俺を見ていた。俺は、何となく気恥ずかしくて古村と目を合わせたりそらしたりを繰り返してしまった。何度目かに目が合った時、古村の目からは大粒の涙が溢れていて焦った。とりあえず近くにあったティッシュを数枚取り古村の涙を拭いた後、新しいティッシュを古村にも渡した。


「ごめん!なんか、急に出て来ちゃって・・・なんでだろ?自分でもよくわからない。もぉ~どうなっちゃってるんだろうね?ホントにごめん。大丈夫だから!そのうち止まるから!気にしないで。私、そろそろ帰るよ。ここに居たら新村のこと困らせちゃうから」


古村はそう言って立ち上がった。俺は、帰ってほしくなかった。そう思ったら何も考えられず身体が勝手に動いて古村の腕を捕まえ、そのまま抱きしめた。


 古村は何が起きているのか理解出来ない様子で動揺していたが、すぐに気持ちが落ち着いたのを感じた。俺は、


「ありがとう。俺、ライクの方じゃない【好き】だわ。話すだけとか言ったのに無理だ。古村が愛おしくてどうしていいか分からない。ちょっとこのままで居させてくれ」


と伝えた。自分でも分かるくらい声が震えていた。古村はそんな俺の背中に優しく自分の手を回してくれた。その手はとても温かかった。そして、古村からもライクではない方の好きだという気持ちが伝わって来た。


『何か私も声に出して伝えなくちゃ!』


と古村は言った。俺は、


『何も言わなくてもいい。ちゃんと伝わってるから。古村が好きだ』


と伝えた。


『私もちゃんと言う。新村のことが大好きです』


古村も伝えてくれた。さっきまで淡々と好きという言葉を口にしていたが、本当に相手のことが好きだという気持ちが分かっていなかったと俺は感じた。好きというのはこういう感情のことなんだと初めて分かった。抱き合っているだけでこんなにも心が穏やかになることを俺はずっと知らなかった。


 耳元で、古村は


「新村。これからもずっと一緒に居よう。一緒に帰ったり遊んだり、そばに居たいと思った時はそばに居るとか。そういうのが付き合うってことなんじゃないかな?お互いに思いやって今までも過ごしてたけど、もうそれが付き合ってるってことなんじゃないかな?」


と言ってきた。


「そうかもしれないな。自然な感情のままでずっと一緒に居たいって思う。ヤバいくらい古村が傍に居てくれることが嬉しい。付き合うのに言葉っていらないのかもしれないな」


俺はそう答えたあと、お互いの顔を見つめた。その距離は自然に近付き、目を閉じたタイミングで唇と唇がそっと触れ合った。その瞬間、時が止まったような錯覚を感じた。俺はゆっくり唇を離し、古村を見つめた。


古村も俺を優しい瞳で見つめていてくれた。それが嬉しくて俺は再びキスをした。何度も繰り返しているうちに俺は少しずつ古村の身体に体重をかけて古村の上に被さった。その体勢でもキスを続け、唇から首筋へと俺の唇は少しずつ移動を始めようとしたその時だった。

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