第27話【はじまりの告白】B面
古村は黙って付いてきてくれたが、問題は心の中だった。男子の家に行くことが初めてでドキドキしている・・・って言うのが伝わって来たあとの妄想劇場は相当なものだった。俺は頭を抱えた。古村の妄想では俺は古村を襲うらしい。もし、俺の心の中も聞こえているなら、その辺で妄想するのはやめてもらいたいと思っていたが、妄想はどんどんエスカレートしていった。
耐えられなくなり俺は、
「大昔のドラマとか映画じゃあるまいし、俺が野獣で古村を襲うのか?だいたい、発想が貧相なんだよ。なんで、男んちに行っただけで襲われるの前提なんだよ。俺には選択肢はないのかよ」
と言ってしまった。古村は、
「せ、選択肢って何よ。襲うにしても相手を選ぶってこと?ひどくない?」
と突っかかって来た。
「選ぶだろ、普通。じゃあ何?古村の想像通りに襲えって?」
と俺が言うと、
「いや、それは困るけど…」
と一歩下がって言ってきた。
「俺も困るわ。全く考えてないこと妄想されちまって」
「ごめん…」
『新村の言いたいことも分かるよ。分かるけど…やっぱドキドキするもんじゃないの?他の子は知らないけど、私には免疫がないから…』
古村の心拍数が俺にまで伝染しそうな勢いだったから、
「今日はやめとく?なんか、こっちまでドキドキしてくる」
と提案した。古村は、慌てて、
「あ、ごめん。大丈夫。免疫ないから変な妄想が。はは…」
はは…って笑いながらも顔は全然笑ってない、むしろ引きつっているのが分かったが、どうしても話しておかなくてはいけないと思っていた俺は、
「そっか。ちょっと大事な話なんだ。話ししかしないから安心しろ。安心しろってわざわざ言うのも変だけど」
と言った。
「うん。ごめん。安心する」
「だから…ま、いいや。ここ。俺んち」
気付いたら家に着いていた。古村は俺のうちを見ながら口をポカンと開けたままになっていた。
「でかっ!何ここ?」
「俺んち」
「そか。新村って金持ちだったんだ。知らなかった」
「なんで、でかい=金持ちになるんだよ。だから発想が貧相っていうんだって。ここは昔から・・・多分、俺のおじいちゃんのそのまたおじいちゃんくらいから住んでる家だから俺たちが金持ちってわけじゃない。古くて俺はあまり好きじゃない。ま、いいや。入って」
俺は、家の前で何を説明してるんだと思って古村を中に案内した。古村も頷いて入って来た。
「おじゃましま~す」
玄関を開けるとまた古村は驚いているのが分かった。俺は、そこには触れずに階段を上がって自分の部屋のドアを開けた。何がそんなに古村を驚かせているのか、よく分からなかったが、俺は古村を残して飲み物を取りにキッチンに向かった。
部屋では古村がまだ驚いた様子でブツブツと感心したり、座る場所に困っている心の声が聞こえたが、気にせず飲み物を持って部屋に戻った。
古村は部屋の真ん中に座っていた。
「古村…」
俺は、手がふさがっていなければ確実に座り込んで頭を抱えていたところだ。
「だって、どこ座ればいいか分からなかったんだもん。だから真ん中に座ってみた」
と言いながら立ち上がった。俺は飲み物を机に置き、その横にあるテーブルと座布団を出した。飲み物を取りに行く前に出して行くべきだったと後悔したが、古村の行動が可愛いと思っていることに自分自身驚いた。
「なんだ。あるじゃん」
古村は多分、俺の心の声を聞いただろうに、そのことには触れずに座布団を受け取ってくれた。俺は、
「あのさ…」
と話を始めようとした。古村が一瞬で緊張したのは分かったが、俺が緊張する前に話をしようと続けた。
「古村が、俺の思ってること、分かるようになったのって、もしかしたら理由があるのかもしれないんだけど…」
と、ここまで言ったはいいが、続きを話すのには勇気が必要だった。この手の話を真剣にするのは苦手だった。古村と違って俺は妄想するのも苦手過ぎてその手の話を考えないようにするタイプだった。必死にこの手の話と比喩しながら考えていたが、古村は特に疑問にも思わず、
『そんなにいいにくい理由なのかな?』
と心配してくれていた。俺は、アイスティーを一気に飲み干した後、深呼吸をしてから続けた。
「あのさ・・・古村って、俺のこと好き?」
「はっ?」
予想外だったらしく、古村は速攻で言ってきた。
「はっ?だよなぁ。うん。そうだよな」
俺は古村の反応はもっともだと思い、何度も「そうだよなぁ」を繰り返した。
「別の理由、調べてみるわ」
と俺は、言ったが、一応そう思った理由を説明した。
「実は、この家の人間は、代々この能力が備わってて、結婚する相手はみんな付き合ってる間にこの能力が備わるんだ。で、なんで付き合ってる間に備わるのかを調べたら…」
俺は、また詰まってしまった。そんな俺を見て、古村は、
「さっき言ったのが理由だってこと?」
と補足するように言ってくれた。
「えっと…うん。そうみたいで…相手がこの家の人間に好意を寄せれば寄せるほど強く備わることが分かったらしい」
と情けないが説明の声はだんだん小さくなるのが分かった。古村は今まで恋愛対象で俺を見ていなかったことは分かっていた。それは俺も同じだった。でもこの話をした後、古村の心拍はどんどん上がっているのが分かった。俺は自分の心拍も上がるのを感じたが、続けた。
「俺の母さんも最初は普通の人間だった。でも親父と付き合い出したら、能力が備わった。二人が結婚して産まれた俺も備わった状態で生まれて来た。変な能力だってことは分かってる。でもこの家の血筋みたいなものらしい」
と一気に話した。そして、アイスティーを注ぎもう一度一気に飲み干した。春の日差しが窓から差し込んでいるから暑いわけではなく、明らかに体の内側から暑くなるのを感じた俺はまた大きく深呼吸をした。そして、
「なんだか、信じられない話だよな。能力とか、リアルで真面目な顔して話したら絶対引かれるレベルだし。でも古村は俺の思ってることが分かるようになったみたいで、でも別に付き合ってるわけじゃないから、俺なりに分析して、付き合うってことは相手を好きになることだろ?だから…」
どうしても一気に伝えることが出来ない自分自身にもどかしさを感じていた。高校生にもなってこんなこともサラッと言えないなんて本当に情けないと思った。そこを古村は、見事なまでに続きを解析し始めた。
「なるほど。そういうことか。けど、私、新村のことが好きかどうかは正直分からない。でも嫌いじゃない。この程度でも備わることってあるのかな?」
古村は真剣な顔で俺に聞いて来た。それを見ていて嬉しさのあまり胸の奥の方がものすごく熱くなるのを感じた。
「分からない。てか、ホントにお前はバカにしないで信じてくれるよな」
俺は「ありがとう」と続けたかったのに、言葉が詰まってここまでしか言えなかった。どんなに現実離れした話でも古村はいつでも真剣に聞いてくれる。そして俺が言いにくそうだと判断したら、その話の続きを想像して自分の答えや考えを伝えてくれる。そのことが嬉しかったし有難かった。
「だって、新村は嘘つく人じゃないし。ホントのこと言ってるのにバカにされるのほどきついものはないでしょ?」
古村は俺の心の中をしっかり理解してくれていた。俺はホントに嬉しかった。が・・・おとなしく終わらないのが古村だった。
『ん?てことは、何?私、もしかして新村のこと、好きになっちゃうかもしれないの?もしかしてもう好きなの?ん???好きな人とか出来たことなかったから、感情が分からん。いやぁ~、違うだろ?好きは、友達レベルの…いわゆるラブじゃなくライクです!みたいな?それも好きってことか?えぇ?…』
「ストーーーップ!落ち着け。」
『新村はいつでもちょうどいいところで止めてくれる。なんか最近、コレ、心地いい♪』
古村の心の声はいつもの暴走古村になっていたが、俺も止めるのが楽しみになっているところもあった。
古村はしばらく考えた後、
「私さ。多分、新村のことが好きだよ」
と言ってきた。これには正直驚いた。完全に予想外のマジなトーン、セリフ、言い方だった。
『ヤベェ、これ、マジなやつ。何サラッと言ってんだよ』
俺の動揺、古村には伝わってると分かっても動揺せずにはいられない状況だった。
「えっ?新村?なんで?私、変なこと言った?…あ、言ったか?」
古村はようやく自分が今、俺に告白めいたことを言ったことに気付いたらしく、悲鳴に似た心の声が俺の頭の中に響き渡った。お互い、しばらく動くことが出来ずにいた。
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