第26話【はじまりの予兆?】B面

 俺たちは割りと大胆に一緒に居ることが多くなった。教室では、俺たちが付き合いだしただの、古村が俺に勉強を教えてもらうために近付いただの、あちこちで聞こえるようになっていた。俺がテストで一位を取っていることが原因らしい。そんな中、


『新村って毎日ホントに一位だよなぁ。きっとうちらを見てるクラスメイトは恋愛ボケでもして新村が順位を落とせって思ってるんだろうなぁ』


古村の声も聞こえて来た。妄想はすっかりなくなった代わりに俺の話題が多くなったことに俺はなんだか嬉しくなっていた。


『古村の名前は?』


俺は、何となく心の中で思ってみた。


『あは。安定の無掲示』


古村の心の声が聞こえた。俺は一瞬、驚いた。俺に答えたのか、偶然なのかは分からないが。


 そう言えば、最近よく俺が思っていることに古村は答えて来る。偶然ってこんなに続くものなのだろうか?なんか確かめるチャンスはないかな?と機会を狙っていた矢先、それはやって来た。放課後、俺は先に教室を出て古村があとから来ていることを感じて、角を曲がったところで何か思わないかと待っていた。


『新村ってどんな勉強の方法であんなに点数取れるようになってるのかなぁ?やっぱ有名な塾とか行っちゃってるのかなぁ?テストの範囲なんて塾は予想出来るんだろうしなぁ。私みたいに自力でやるには限界があるんだろうなぁ…』


古村の疑問にここから答えてみたらどうなるかな?と俺は思った。そして、


『塾なんて行ってないし、勉強だってそんなに必死にはしてない』


と思ったあと、そっと古村の様子を伺った。古村は、後ろを振り返っていた。


『あれ?誰もいない。新村の声がしたんだけど…』


そう言いながらキョロキョロしていた。


『次の角、曲がったとこにいるんだけど』


俺は、そう続けた。


『へ?新村?角?』


古村はそう言うと角まで走って来た。そして、


『えっ?えっ?どういうこと?結構離れてたよ、何大声で答えてんの?私が居るの分かったら戻ってくれば良かったじゃん。人が聞いてたら、あの人一人で何言ってんだ?って思われちゃうよ』


と言ってきた。俺は、


『大声で言ってねぇし。やっぱりそうか』


尚も心の中で伝えてみた。


『えぇぇぇぇぇ?口、動いてないじゃん!何?腹話術?』


かなり古村はパニックになっていた。


「またでかい声になってる。久々に聞いたな、そのキンキン声。」


と声に出して伝えた。古村は、


「なに?どういうこと?さっきのは何?」


と俺に詰め寄ってきた。


「何となく、最近の古村、俺の思ってることに無意識に答えてるなぁって思ってて、もしかしたら俺の思ってること、聞こえてんじゃないか?って思ってさ。試したかったけどチャンスがなくて。で、今日はちょうどチャンス到来だったから試してみた」

「へっ?新村の心の声が私にも聞こえるってこと?まさかぁ?」

「だって、現に今、俺が塾行ってないって言ったの聞こえたんだろ?俺、こんなとこから大声で答えないよ」

「確かに…でも、なんで?なんで私、聞こえるようになったの?」

「さぁ?」


『さぁ?って…新村に分からないんじゃ、私にはもっと分からないじゃん!』


古村は完全にパニック状態だった。そりゃそうだろう。俺だって、理由に確信があるわけじゃない。ただ、思い当たることはある。けど、ここで説明するのは・・・正直、恥ずかしさがある。


『そりゃ、新村と授業中とか心の声なら堂々とおしゃべり出来たり、分からないとこ、こっそり聞けて便利だろうなぁとは思ったけど、そんなの自分には出来るわけないし』


古村のパニックはもっとエスカレートしそうな勢いだった。俺は、


「なぁ。その件なんだけど、今日って時間ある?ちょっとうちに来てほしいんだけど。ここだと誰が聞いてるか分からないし」


と言いながら、思い当たる理由を考えないように必死だった。万が一古村に聞こえてしまったら、かなり恥ずかしいから。


「分かった。行く」


古村は、即答してくれた。俺は、なぜかホッとしていた。

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