第23話【不思議のはじまり①】B面

 これからここで綴る物語は、人とは違う能力を持って生まれて来た俺、新村佑希に突然訪れた出来事の物語。


 俺は、中学を卒業した後、通信制の高校に入学をした。週に一度登校すればいいし単位制だから自分のペースで勉強が出来る高校だった。しかも全日制への編入も出来る制度もあり、俺としては外に出なくてもいい好都合の高校だった。と言っても学校行事の単位もあるから文化祭や体育祭などの参加はしなくてはいけなかったからすべてが好都合というわけでもなかったが。


 俺には人とは違う能力があり、そのせいで同級生とはうまく交流が出来なかった。この能力を辛いと思ったことはないが、知られた時には理解されないことが多く、中学まではひとりで居ることが多かった。その能力と言うのは[人の心が読めてしまう能力]だ。通信制の高校を選んだ理由も勉強さえ進めて卒業に必要な単位を取得さえすれば大学にも進学できる可能性があるし、人と関わることが最小限で済むから無理に理解を求めたり交流したりしなくて良かったから。


 そんな生活を1年続けて来たが、どうやらこの通信制高校から俺の目指す大学に進学することは難しいと進路指導の際に言われ、全日制の高校に編入することにした。俺の成績なら編入試験も合格出来るだろうと勧められた高校があり、調べてみると自宅からも徒歩圏内にある高校だった。


偏差値はかなり高い高校だったが一応編入試験を受けることにした。4月の2年生から間に合うようにと1月には面接、試験をして合格をもらっていた。

 全日制に編入する際の一学年で取得していなければいけない単位も問題なく取得出来ていたらしく、俺は二年生からの編入を認められた。


 新学期開始日が編入日で、担任になる高見沢という今年50になるやけに上から目線の男性に教室まで案内された。教室では俺が転入してくる噂も聞こえたが、大半が勉強をしているようだった。


「今日から一つ学年が上がったわけだが、お前らに新しいライバルを紹介する」


と担任は生徒に向かって言い放った。


『誰がライバルだよ。もっと言い方があるだろ』


と俺は思ったが、そこはおとなしくしていた。俺の名前を黒板に書いたあと、自己紹介を促されたが、面倒だったので拒否をした。


『こいつ、俺に逆らうつもりか?少しくらい成績がいいからっていい気になるなよ!そのうち他の生徒同様に俺に逆らえなくしてやる』


高見沢からはこんな心の声が聞こえて来た。


俺もあんたのこと眼中にないよ』


と思ったが、もちろん声に出す気はなかった。このクラスの大半が担任を嫌っていることはすぐに分かった。俺もこの学校に来たのは大学進学に有利だったからで誰かに従ったり仲良くしたりするつもりは一切なかったから、出来るだけおとなしくしていようと決めていた。


『転入早々、イヤミ沢に反発するとかすげぇな』

『イヤミ沢の顔。笑える』

『関わらなくてもいいから、はい、はい、って言っとけば内申よく書いてもらえるのにバカや奴だな』

『うわっ!あの転入生、イヤミ沢に反抗してる!知らないぞぉ、あとでものすごくイヤミとか言われるよぉ』


いろんな心の声が聞こえる中、ひと際頭に響く声がした。どの子だ?こんな声一日中聞いてたら頭が痛くなりそうだと俺は思っていたが、この時にはどれが誰の心の声なのか、まったく分からなかった。ただその心の声はやけに不快なものだった。

 ホームルームが終わり、体育館で始業式があると言われ、俺もみんなに混ざって移動をした。


『そうだ。学校ってのはこういうのがあったんだった。中学までしか経験がなかったから忘れかけてた』


式が終わり教室に戻ってきたが、俺に興味はある奴は数人いた。でも話し掛けて来なかった。ありがたかった。なのに、やはりあの心の声は常に響いていた。どいつだ?俺を見ている奴は居ない。なら、なんで俺の様子が分かる?近くの席の奴か?一度気になり出すと、は、ずっと何かを考えていることに気付く。


『この声の主は学校に何しに来てるんだ?』


と呆れるほどクラスメイトの観察をし続けている奴だった。


 放課後にはテストがあった。これは編入試験の面接でも説明されていたが、どの程度のテストなのかは説明がなかった。でも通信制で使っていたテキストの範囲内の問題ばかりだった。どうやら一年の復習問題だったようだ。まぁ、今日から二年なのだから当たり前と言えば当たり前だが。


 翌朝登校すると廊下が生徒たちで溢れていた。どうやらテストの結果が貼り出されているようだった。俺は特に興味もなかったし生徒たちをかき分けて教室に入った。席に着くとすぐにクラスメイトが近付いて来た。


「すごいな!」

「前はどこの高校だったの?」

「どこの塾に行ってるの?」


と次から次へと質問してきた。正直こんな光景は初めての事だった。俺は面倒になり、イヤホンを付けて机に伏せた。


『聞こえないフリ作戦?』


あっ!またあの声だ。


『不思議な子だな』

『異色だし、同じ一番後ろだし観察対象としては見やすいから、ついつい見ちゃう』


声の主のヒントが聞こえた。一番後ろの席で女子は二人だったはず。一人はずっと問題集を解いていた気がするから残りのもう一人が声の主か!と俺は確信した。


『そんなに一位じゃないことがショックなのかな?』

『一位以外認められないと言うなら私はとっくに人生終わってるってこと?』

『頭のいい奴の考えることは分からないなぁ』

『平凡の何が悪い?』


どうやら常に1位の奴がこのクラスに居て、今日、俺が1位を取ったことでかなり落ち込んでいたようで、それを見ながら声の主は思っていたようだった。


次から次へとよくまぁいろんなことが浮かぶもんだと俺は呆れを通り越してもはや感心してしまっていた。感心してはいたがやはりうるさいものはうるさい。心の中で何を思おうと勝手だが、こんなに頭に響く声はさすがに不快以外の何物でもない。俺は、


「お前、うるさい!」


つい、声の主のところに行き、言ってしまった。

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