第15話 不思議な香り①A面
高校を出ると新村はすぐに、
「なんか、うまくコントロール出来てたみたいだな。驚いた」
と言ってきた。
「うん。実は自分でも驚いてる。昨日は倒れるくらいパニックだったのにね」
私が昨日を思い出して苦笑いしながら言うと、
「適応力、ハンパないな。頼もしいよ」
と新村は何故か誇らしげに言った。
「そうでしょ!私も問題解きながらあまりにも冷静な自分に感心したわ」
私も何となくドヤ顔になりながら答えた。
「俺さ…このまま古村がこの能力に振り回されたらどうしようってずっと考えてた。なんか申し訳ない気持ちでいっぱいになってた」
私のドヤ顔にツッコミを入れてくれると思っていたのに急に真面目なことを言われて焦って、
「えぇーーー?そんなに悩ませちゃってたの?ごめん!大丈夫だから。そりゃ慣れないことだらけでどうしようって思ったのは確かだけど。新村、言ってたよね?悪いことばかりじゃないって。今日ね、私、その言葉の意味がホントに分かったの。私が謝った時に誰も何も言わなかったけど心の中ではちゃんと聞いててくれて答えてくれてた。言われなくても相手の思ってることが分かるのは今日みたいな時には有難いなぁって思ったし。私は大丈夫そうだよ。昨日までは自信持って大丈夫とは言い切れなかったと思うけど今日はちゃんと言える!」
と答えた。
「そう言ってもらえると助かる」
沈んでいた新村の顔に少し笑顔が戻って来たのを見逃さなかった。私はホッとして、
「大丈夫だからもう悩まないでね」
と伝えた。
「分かった」
新村に笑顔が戻ってホッとした私は、
「今日は、このまま帰るね。母親が心配してるのも聞こえちゃったから。元気になったアピールだけはしておこうかなって」
と伝えた。
「おう。気を付けてな。また明日」
私はいつもの新村に戻っていたからニヤリとして、
「新村も悩みながら歩いて躓かないでね。で、明日は日曜ですけど?」
とツッコんでみた。
「あっ!」
新村の顔は子供がビックリした時のようで、思わずもっとツッコミたくなって、
「真面目ねぇ♪明日も学校行くんだ♪私は休むけど」
と言ってみた。
「…」
『こ~む~ら~!』
私の言葉にちょっと悔しそうに心の中で言いながら、拗ねたような顔をした新村に、
「また来週ね♪」
そう言って新村に手を振り交差点を左に曲がって走り出した。
言い逃げも楽しい♪
私の家はこの交差点から左。新村の家は右に離れて行くのだ。新村がしばらく私を見ていてくれたのは分かったけれど何となく振り向かずにそのまま走って家に向かった。新村は私を見送りながらもまだ悩んでいたのが伝わって来たから、何度も振り向いたらいけないような気がした。
悩まないでほしかった。
私を好きだと言ってくれた気持ちを後悔してほしくなかった。
新村に後悔されてしまったら私の初恋まで後悔しなくてはいけなくなりそうだったから。
これからもずっと新村と一緒に居たいと思っているのが私だけになってしまうことが怖かったのかもしれない。私は逢うたびに新村のことが好きになっていく。それは新村も同じであってほしかった。自信がなかったのかもしれない。
自分は自信を持って新村が好きだと言い切れるが、私に色々あって悩んでいる新村は果たして私を好きだと言い切れるのか?そんな不安が、新村と一緒にいるとつい心で思ってしまいそうだったから敢えて今日は新村と距離を置きたいと思ってしまったのだ。
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