第12話 親の心①A面

 翌日、昨日の放課後テストの結果がいつものように貼り出されていた。

私は再び動揺した。そこには、新村の次に自分の名前が書かれていたのだ。いつものように結果は素通りして廊下の人だかりをすり抜けていきながら横目で見て通り過ぎるはずだった私は思わず立ち止まらずにはいられなかった。


点数も満点だった。今回は他の順位だった生徒たちの点数も高かったが、満点は新村と私の二人だけだった。英田ですら満点ではなかったのだ。


 私は自然に足がガクガクして来るのを感じた。カンニングをしたわけではないが自分の中ではグレーラインだと思っていたから。そして今後のテストでも同じことが起きたらと考えるだけで不安になっていた。


「おはよう!」


動揺している私の後ろから声を掛けてくれたのは新村だった。新村はあえて明るく声を掛けてくれたのに私はその声にいつもの安心を感じられない。それくらい動揺していた。


『大丈夫?』


今度は心の中で聞いてきてくれた新村に、


『大丈夫…じゃないかも』


とだけ答えた。


『とりあえず教室に行こう』


新村は出来るだけ普段通りに言おうと気を遣いながら言ってくれた。

私もその優しさに応えようと、


『うん。そうだね。教室に行こう』


と伝え、ふたりでその場を後にした。


 教室に入ると、大方の予想はしていたが一斉にドア側に視線が集まった。


そりゃそうだ。


今まで無掲示だったクラスメイトが突然二位の欄に名前が書かれているのだ。1年生の復習だったとは言ってもそんなに簡単にあの場に名前が書かれるはずがないと明らかに疑いの視線だった。新村がいきなり一位を取った時とは状況が違い過ぎる。私は今まで一度だってあの場に名前が載ったことがなかったのだ。


1年以上もそんな状態だったのがいきなり載るのはやはり不自然以外の何物でもないことくらい自分にだって分かっていた。こんなことなら自分と答えが違った問題は自分の答えを書いておくのだったと心から後悔した。

 私は視線を気にしない振りをして自分の席に着いた。新村も普段通りを装ってくれて自分の席へと向かった。


『古村は何も悪いことしてない。自分を責めたり後悔したりしないで』


そう言いながら。でもやはり完璧に悪いことしていないと言い切れるかと言われたら言い切れない自分もいたのは事実。もちろん、例えば今回疑われて担任から問い詰められて、「実は私、人の心の声が聞こえるんです」と言ったところで信じてもらえないのは明らかで、他にカンニンググッズを持っていた証拠など、どこにもないのだからきっとお咎めはないのは分かっている。


何より、おそらく問い詰められることもないだろう。でも私の中ではどうしても『悪いことしてない』とは言い切れない部分は捨て切れなかった。


 モヤモヤしたまま授業が始まってしまった。もちろんその日一日過ごしていても担任から呼び出されることもなければクラスメイトにカンニングだと疑われるような声も聞こえなかった。


クラスメイトの声と言えば、『やっぱり新村に教わってるんだ』『あいつ、うまくやりやがったな』と言う私が正当に頑張った結果ばかりだった。それはそれで嬉しかったが複雑だった。新村に教わったわけでもなく、正当に頑張った結果だと思ってくれているクラスメイトの誰かの答えを参考にしたのは間違いない事実だったからだ。


 そして今日も例外なく放課後テストの時間になった。担任の「始め!」と言う合図でテストを表にすると早速クラスメイトの声が聞こえて来てしまった。出来る限り聞かないように自分で問題を読んで答えようとしたがどうしても答えが聞こえて来てしまう。問題に集中出来ず、答えも導き出せない。そのうち周りの声が聞こえなくなった。次の瞬間鈍い大きな音だけ聞こえてそれっきり何も聞こえなくなった。


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