第4話 はじまりの予兆?A面

 学校では割りと大胆に新村と一緒に居ることが多くなった。

朝のホームルーム前、授業の合間、昼休みも一緒にお弁当を食べるようになった。一緒に帰る日もあったし、朝一緒になる日もあった。そんな私たちをクラスメイトたちは見ない振り。


大方、恋愛に走ったクラスメイトの脱落を願っているのだろう。特に超優等生くんの英田あいだにとっては1位に再び自分の名前が書かれるためには恋愛ボケでもして順位を落としてほしいと思っていたかもしれない。

残念ながら、相変わらず新村は毎日1位に名前が書かれていたけど。


ドンマイ!超優等生くん。


で、私は?


あは。安定の無掲示。


 毎日のテストばかりに気を取られていてはいけない現実もある。忘れてはいけないのが、毎日のテストとは別にやって来るもの。それは定期テスト。何が怖いって定期テストだけは、全員名前が貼り出される。1位からビリまで…。これは正直キツイ。全員の順位が分かってしまうから。頑張っても毎日のテスト同様真ん中だけど、何位なのか探すのに苦労する。


上位20位、下位20位は、別の紙で貼られるからここに入った人たちはある意味見つけやすい。残りは全部一枚の長い紙に書かれているし、ひとりひとりの名前がとっても小さい。全員書かなくてはいけない結果がこの文字の大きさなのかもしれないけど、凡人に興味はありませんという扱いに毎回凹み、一瞬は


『次回は上位20位の中に!』


と思う。でもホントに一瞬だけ。だって、定期テストの順位発表のその日ですら放課後テストがあり、定期テスト上位に入れるほど勉強する時間も心の余裕もないのだから。毎日のテストで下位に入らないことだけで精一杯なのだから。


 毎日、毎日、ホントに同じことの繰り返しだった高校生活。新村が転入して来てから、確実に変わった。勉強のことしか頭に入れないようにしながらもクラスを観察しては妄想していた毎日が、気付くと最近はクラスメイトの観察も妄想もしなくなっていた。


新村と話している方が楽しかったから。新村も相変わらず私以外のクラスメイトと関わることはしなかったから、何となく自分が特別な扱いをされているみたいで気分が良かった。まぁ、特別な扱いでも別に恋人ってわけではないけど。優等生と中間層が、ただ馬が合ってつるんでる…と言ったところだろう。


 そんな日々が過ぎ、定期テストが来週に迫った日の帰り道。


『新村ってどんな勉強の方法であんなに点数取れるようになってるのかなぁ?やっぱ有名な塾とか行っちゃってるのかなぁ?テストの範囲なんて塾は予想出来るんだろうしなぁ。私みたいに自力でやるには限界があるんだろうなぁ・・・』


久々に色々考えてみた。新村と居る時には、声に出しても心で言っても聞こえてしまうが、今日は一人で帰っていたのでとりあえず心で言ってみた。


「塾なんて行ってないし、勉強だってそんなに必死にはしてな。」


そう言われ、私は後ろを振り返った。


『あれ?誰もいない。新村の声がしたんだけど…』


「次の角、曲がったとこにいるんだけど」


『へ?新村?角?』


私は走って次の角まで行った。そこに新村は居た。


『えっ?えっ?どういうこと?結構離れてたよ、何大声で答えてんの?私がいるの分かってたら戻ってくれば良かったじゃん。人が聞いてたら、あの人一人で何言ってんだ?って思われちゃうよ』


『大声で言ってねぇし。てか、やっぱりそうか』


新村の声はする。でも…


『えぇぇぇぇぇ?口、動いてないじゃん!何?腹話術?』


私はパニックになっていた。


「またでかい声になってる。久々に聞いたな、そのキンキン声」


今度は口が動いていた。


「なに?どういうこと?さっきのは何?」


今度は私も声に出して聞いた。


「何となく、最近の古村、俺の思ってることに無意識に答えてるなぁって思ってて、もしかしたら俺の思ってること、聞こえてんじゃないか?って思ってさ。試したかったけどチャンスがなくて。で、今日はちょうどチャンス到来だったから試してみた」

「へっ?新村の心の声が私にも聞こえるってこと?まさかぁ?」

「だって、現に今、俺が塾行ってないって言ったの聞こえてたんだろ?俺、こんなとこから大声で答えないよ」

「確かに…でも、なんで?なんで私、聞こえるようになったの?」

「さぁ?」

私は軽く…いや、相当パニックになっていた。


『そりゃ、新村と授業中とか心の声なら堂々とおしゃべり出来たり、分からないとこ、こっそり聞けて便利だろうなぁとは思ったけど、そんなの自分には出来るわけないし』


「なぁ。その件なんだけど、今日って時間ある?ちょっとうちに来てほしいんだけど。ここだと誰が聞いてるか分からないし」


新村は、いつにないほど真剣な顔で言った。私もその勢いに押され、


「分かった。行く」


と答えた。

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