第3話 運命の出会い・・・なのか?A面
翌日は少し早めに登校した。あの転入生と関わるために心の準備をするのに、ギリギリで登校したのではまた「うるさい!」と言われるほど心の声が大音量になると思ったから。
心を落ち着かせ、静かに喋る感覚で心の中で何かを言う…それがどれくらい昨日までの自分と違うのか、自分では確認出来ないけれど、言われたことも直す気がないと思われるのも悔しいからやってみようと思った。
普通に考えたらおかしな話だ。現実にそんなこと言われて、信じる人の方がきっと少ないと思う。でも私は、信じた。あの面倒くさそうな顔が嘘を言っているようには思えなかったし、何よりパニックになった時には怒鳴ったと言っていたあの言葉が嘘だとは思えなかったから。
毎日同じ日々の繰り返しで平凡だった高校生活も転入生が来て少し楽しくなれるかもしれないとワクワクしていたのかもしれない。他の生徒が勉強ばかりやっていたって、私も同じように過ごす必要はないんだと思えた。
もちろん目標の〈劣等者には入らない〉は、卒業するまで継続させるため勉強だってする。でも勉強以外も何かあれば高校生活だって楽しいって思えるかもしれない。今まで感じたことのない好奇心を、私は楽しんでいた。そして、楽しいことを考えているときの私は心が穏やかに感じられた。そこへ、あの転入生がやってきた。私は意識すれば本当に心の声を小さく出来るのか試しに心の中で、
『おはよう。昨日は、アドバイスありがとう。このくらいの声ならうるさくない?』
と思ってみた。転入生は、一瞬驚いた顔で私を見たがそれだけで、返事をくれることはしなかった。でも、あの顔はしっかり私の心の声が聞こえていた顔だと確信した。
その日の授業は、やけに長く感じた。昨夜、いろいろ考えていて予習をしっかりしていなかったせいで、先生が何を説明しているのかさえ理解出来なかったせいかもしれない。今日の授業は家に帰ってしっかり復習しなくては・・・と反省した。
授業の後はテスト。
この学校は放課後にテストがある。放課後に何かある時には、朝からテストをやることもある。朝のテストは時間が短縮されるため比較的優しい問題がそろっている。でも勉強出来なかった今日は、普通通り放課後テストだった。
最悪な日だ。
劣等者枠に入らないことを祈るしかなかった。一気に明日が憂鬱になった。
テストが終わり、やっと解放。
終わってしまったものは仕方がない。気持ちを切り替えて私は、転入生を探した。もう少し話がしたいと思っていたから。
教室にはもういないようだった。カバンもない。
『えっ?もう帰ったの?』
私は急いで学校を出た。
昨日は見失ってしまったので、転入生が電車通学なのかバス、徒歩なのか確認出来なかった。でも、昨日会った所までは同じ道を通っているはず。私は自然と早足になった。しばらくすると転入生が前を歩いているのが見えた。私はさらに急いで転入生を目指した。私に気付いたのか、転入生は後ろを振り返った。
『イヤイヤ、それは反則でしょ?いきなり振り向くとか。怪しいよね?絶対怪しがっているよね?どうごまかす?イヤ、ごまかしようがないよなぁ…』
私は一瞬立ち止まり、なぜだか吹けない口笛をヒューヒューしながらそっぽを向いた。
『ごまかすのに口笛とか、私いつの時代の人だよ。漫画でも最近は見ないわ』
自分で自分にツッコミを入れていると、
「何やってんだ?」
最初に口を開いたのは転入生だった。私は、
「別に何も」
と言った後、
『私ね、あなたと仲良くなりたいの。だから、心の声も頑張って小さく言えるようにする。このくらいで大丈夫?』
と心で思った。
すると、転入生は黙ったまま私を見た。
内心ドキドキした。
『どうして黙ってるんだろう』
って。私が困った顔をしていたのか、
「だよな。やっぱ、俺の心の声は聞こえないか…」
とちょっと残念そうな顔をしながら言った。
「えっ?私にはそんな能力ないよ」
「だよな。すまん。いやぁ、もし出来るようになったら便利かな?って思ってさ」
「そうだよね。…って、えっ?私と仲良くしてくれるの?」
私は話の流れで自然に残念がってしまったけど、この流れって私を受け入れてくれたってことだって気付いて、なんかすごく嬉しくなった。
「仲良くってのは、付き合うってこと?お前、俺のこと好きなの?」
転入生は、上から目線で言った。
『えっ?なんでそうなるの?仲良く=付き合うとか意味分かんない』
「はっ?違うし!付き合うとか好きとかじゃないし!」
私は慌てて言った。
でもホントに好きとかじゃないんだから、はっきり否定しておきたかった。
「じゃあ俺に興味があるのはなんで?」
「なんでだろ?昨日、少し話してくれて、家に帰ってからいろいろ考えて、もしかしたらホントはもっとみんなと一緒に居たいんじゃないかな、でもみんなの本音が聞こえちゃうから嫌なんじゃないかな、とか」
私はまるで心の中で思っているかのように言葉がすらすらと出てきている自分に驚きながらも止まらなかった。
「でも、だったら、普段喋らない私は、建前で喋ってる人とは違って、本音全開だからあなたも気が楽かな?って思ったりして…私も上から目線だな、あは。でも、興味とかとも違う気がするんだ」
私が思ったことを口に出すのは中学校以来かもしれない。高校に入ってからは思っていても口にすることはほとんどなかったから。なんだか、すごく楽しかった。そんな私を見て、
「そっか。俺のこと、気持ち悪くないんだ。お前、変わってんな」
転入生はそう言うと少し微笑んだ。
『あれ?なんか、笑顔が可愛かったりする?普段難しい顔してるから気付かなかったけど、意外と整った顔してるんじゃない?』
と思って、ハッとして、思わず口を押えた。
「可愛いとか…てか、口押さえてどうすんだよ。面白いな、お前」
転入生は、そう言って笑った。私も口押さえるのはどうなの?って思い、自分でもおかしくなった。
「て言うかさ、私、〈お前〉じゃなくて、古村。古村沙希」
どさくさに紛れて自己紹介してみた。
「ほんじゃ、俺も言うけど、ずっと〈あなた〉って言われてるんだけど?俺の名前は転入した日に黒板に書かれてたから分かってんだろ?新村祐希」
『おっ?名前、教えてくれた。そうだよね。私も〈お前〉って言われてたからムキになって〈あなた〉って言ってたけど、お互い名前で呼んでなかったんだ。でも、なんて呼べばいいんだ?ニイムラ?ニイムラくん?ん?ニイムラ?コムラ?この人が新しい村で、私は古い村?…なんか、気に入らない。てか、黒板見た時気付かなかった。ん?見てなかった?実は私、この人の名前知らなかった?あれ?ん?…』
「ストーーーップ!またパニックになってる…新しいとか古いとか笑える。じゃあ、名前でいいよ。ユウキだったら問題ないだろ?」
「うん…ん?ユウキ?サキ?…なんか似てる…」
「…じゃあ、どうすりゃいいんだよ。めんどくせえな。俺は古村って呼んでいいんだろ?」
「うん。じゃあ、私も新村でいい?」
『呼び方一つで何パニックになってるんだ?私…情けない。これだから男子と喋ったことない奴は面倒くさがられるんだよなぁ』
「なに?もしかして、彼氏いない歴=実年齢ってやつ?」
「えっ?…あ、また私…てか、イコールじゃいけないの?そうだよ。悪い?」
『あぁ…自虐ぅ~…』
「いや、悪くないけど?」
新村はそう言うと、それ以上何も言わずに前を向いて歩き出した。私もそれ以上は何も言わず、ついて行く感じで歩き出した。
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