夜 /バイト先にて

 友人達とファミレス、カラオケ、ショッピングのハシゴをした後、わたしは家に帰らず、そのままバイト先に向かった。

 終電近くの時刻。

 すでに辺りは真っ暗で、霧が濃くなっていた。

 今日は満月だというのに、朧月夜だ。

「まあキライじゃないけどね。キレイだし」

 肩を鳴らし、駅から少し離れた地下鉄に降りる。

 改札を通る前に、駅員室の扉をノックした。

「おお、ルカちゃん。いらっしゃい。今晩もよろしくね」

 中から人の良さそうな中年男性が顔を出す。ここの駅員だ。

「はい、よろしくです。何か注意、ありますか?」

 中に入ると、もう一人の駅員の人が頭を下げてきた。この人は新人だ。

「そうだねぇ…。相変わらず『迷い人』が多いぐらいだね。でも私達ではどちらなのか、見分けが付かないからねぇ」

 説明を受けているうちに、若い駅員がお茶を淹れてくれた。

「どうも」

 お茶を一口飲み、中年の駅員を見た。

「対処は?」

「とりあえず、いつもの通りだよ。あとはルカちゃんに任せるよ」

 困った様子の駅員2人に、私は苦笑した。

「はい、それがわたしの仕事ですから。それよりも帰り道にはくれぐれも気を付けてください。表の世の犯罪者には、わたし達の力は行使できませんから」

「分かっているよ。ルカちゃんの親族の人が、送迎してくれるから大丈夫」

「なら安心ですね。寄りたい所とかあったら、遠慮なく言ってくださいね。下手に夜道を歩かれるより、迷惑にならないんですから」

「分かっているよ。さて、そろそろ私達は行こうかね」

 中年の駅員が、若い駅員に声をかけた。

「それじゃ、また明日」

「ああ、頑張っておくれ」




 ―そして終電が行き、駅が閉まった。

 わたしは一人、薄暗くなった駅の中を歩く。

 そして一通り見回りを終え、誰もいないことを確かめると、駅員室に戻った。

 駅員室の奥に、給湯室がある。

 水場の下の棚を開け、水道のパイプが目に映る。

 暗い棚の中に目を凝らし、一つのスイッチを見つける。

 そこに触れると、給湯室の壁が動いた。

 ぽっかりと、空間が出来る。

 わたしはそこに入る。

 下に続く階段を降りる。

 そう―この地下鉄よりもなおも深い地下に。

 わたしが階段を降り始めると、後ろの壁が静かに閉じて、代わりに階段に光が照らし出される。

 明るい階段を降りる。

 十分ほど降りた所で、一つの扉の前に出た。

 ドアノブをゆっくりと回す。

 その先には、地下鉄の光景が広がる。


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