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 わたしは躊躇無くそこに降り立った。

 上の地下鉄となんら変わり無い地下鉄だが、空気がイヤに澄んでいる。

 濁りが無いものが全て良いワケではない。

 濁りが無いからこそ、染まりやすいというのがある。

 そう―闇に。

 わたしは明るい駅の中を歩き、駅員室に向かった。

 部屋には複数の話し声。

 ドアをノックすると、明るい男性の声が返ってきた。

「お~。ルカ、今日もお疲れさん」

 まだ二十代の若い男性駅員の彼は、わたしの親戚である。

「やっほ、シヅキ。今夜もよろしくね」

 親しげに話しながら、駅員室に入った。

「おお、ルカくん。今夜もよろしくね」

「はい、おじ様」

 シヅキの実父も、ここの駅員の一人だった。

「毎日ご苦労さま。大学の方は大丈夫かい?」

 柔らかい物腰で話しかけるのは、今年40になるというのに二十代にしか見えない、これまたわたしの親戚だ。

「ええ、ラゴウ。明日は休講だし、気にしないで。そんな長期になる仕事じゃないしね」

「まっ、今の内だけだかんな」

 そう言ってシヅキがコーヒーを淹れてくれた。

 二杯目だが、飲み物が好きなわたしは笑顔で受け取る。

「さんきゅ。それより相変わらずみたいだね。毎年こうなの?」

「そうだなぁ。いつもはマカちゃんが来てくれるんだけど、学校の勉強合宿と重なっちゃったから、今年はルカちゃんにお願いしたんだけどね。今年はちょっと多いかな」

 おじが考えながら言った。

「マカ…。わたしより年下なのに、この仕事を?」

 思わず顔をしかめる。

 まあ年下の従妹である彼女の方が『強い』ので、仕事上の心配は少ないと思うけど…やっぱり危険だ。

「まあ当主のお考えでね。将来当主になる為には必要だろうって」

 ラゴウが苦笑しながら言った。

「ったく…。マカも気の毒というか何というか…。生まれてすぐ、次期当主に名指しされちゃ逃げ場無いわね」

「そうだね。当主にしては早計だと俺も思うが…何分、俺達一族は当主の命令には逆らえんからな」

 おじが肩を竦めて言うと、他の男性二人も同じくため息をついた。

「確かにマカはオレ等よりも『強い』からな。そこに目を付けられたんだろうけど」

「シヅキ、そういう問題じゃないでしょ? ならもうちょっと大事にしてあげれば良いのに…。馬車馬のごとく、こき使われてるんだから」

「まあなぁ…。でもアレ、半分はマカの性分だろ? 例のケータイだって、マカの方から首突っ込んだんだって?」

「アレはっ! …マカの親友が引っ掛かっちゃったから…」

「損な性分って言うか、苦労性と言うか…」




 その頃のマカ―。

「はっくしょんっ! ひっくしょんっ!」

「やだ、マカ。カゼぇ?」

 合宿場の部屋で、ミナと勉強をしていたマカはティッシュで鼻をかんだ。

「…いや、誰か悪いウワサをしてやがる」

 胡乱な目付きで、マカは空を睨んだ。




「まあまあ。マカちゃんのことはともかく、ルカちゃん。そろそろ頼むよ」

「あっ、はーい。じゃあちょっと着替えてきます」

 そう言ってわたしは奥の部屋へ行った。


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