第4話 沈痛
「いたっ!」
そう周りの目も気にせず大きな声を上げた。
そんな大きなリアクションに比べて受けた傷は小さい、
だが出血はしている。
「誰がこんなことを...」
いるわけは無いだろうが、
反応見て楽しむタイプもいる。
一応周りを見回してみたが、俺以外いつもの風景に思える。
上履きをひっくり返してパラパラと画鋲が落ちた。
中までしっかり確認して落ちてこないか、
入念に振った後に恐る恐る履いた。
その間も周りに目は配ったが、さして怪しい様子はない。
となればこっから犯人探しだと一歩前に出てみると
ズキンと刺さった右足が痛んだ。
下手したら出血が酷くなっているかもしれない。
そうなったら行く場所は一つしかない、
保健室だ。
そうして擦るようになるべくズシンと体重を乗せないように
細心の注意を払いながら、足を引きずるように進む。
その間、頭に浮かぶのは犯人と成り得る心当たりのある人物のことだ。
正直あまり自分では気付かないが、
人を傷つける言動というものをよくすることがあるらしい。
だからこそ犯人がとても絞りきれたものではない。
そういえば暴言...というべきか、鋭い言葉をよく吐いていた頃を急に思い出した。
それが多かったのは幼少期、特に言葉を覚えたての小学生というのは
言葉の暴力の加減が分からないことで有名だが、
自分はその更に斜め上を行った毒舌として小学生の時はよく敵を作った。
例えば給食で子供としては珍しく、
サラダが好きな子がいた。
サラダが給食として出る度に必ずおかわりする姿を見て俺は
「お前、虫みたいだな!」
と笑顔で言ってしまったらしい。
当然、言われた当人はジワジワとその言葉が悪口であるとの認識と共に号泣。
緑色のものをモリモリ食べる姿がイモムシを連想したのだろう、
その発言を咎められて何がいけなかったのかを理解するのも遅かった。
他にも泥遊びが好きな子には
「汚ねえことが好きなんだな!」
だとか、男の子の友達が多い女の子には
「お前、女の友達がいないんだな!」
だとか、
それはそれは今思えばまさに暴れん坊将軍さながらに喧嘩の種を蒔いていた。
何というかアスペとは言わずとも
あまり、人の心を察して思いやる・空気を読むといった
この国の美徳とするものに反する性分に生まれ育ってしまったらしい。
だからクラスメイトを泣かしてみたり、
クラスメイトと喧嘩がある度に
親にはこっぴどく
「お前は余計に他の子に話しかけるな」
と言われたものだ。
今だって鮮明に脳内再生できるほど耳たこであった。
そのため俺は下手に人に話しかけることも、
関わり合うことも止めた。
いや、出来なくなってしまったと言ってもいい。
そのために知っている人間、話せる・話しかけられた者としか
話すことの許可が下りていないのではないか?
そんなことを思うようになって不器用な接し方しか分からなくなってしまった。
だから......
彼女を守ろうと発した声は
今までの自身の存在価値の発見だけでなく、
己で決めてしまった殻を破ったような、
そんな気がしたんだ...
と沈痛な想いに足が止まって、感情が表情にまで出ていた。
喧騒にハッと我に返ると廊下に突っ立っていた。
怪訝な表情で見てくる者もいる。
そうして恥ずかしくなってそそくさと足のことも忘れて
逃げるように保健室に向かった。
「ハア、ハア...」
いつの間にか駆け出して息が切れてしまった。
それでも何とか保健室まで来た。
ここらはオカルト研究部とは反対の位置にある学校の端であり、
やはり人通りも少ない。
それもあってか......
保健室のドアに手を掛けようとした時、
「私、この学校を退学したいです!」
そんな声がドア越しに廊下までハッキリと聞こえてきてしまった。
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