第3話 興味
そうしてその後、
いつも通りの日常が戻ってきたが、
授業中も、下校中も、帰宅後もずっと彼女のことが頭にあった。
普通ならば甘酸っぱい恋か何かを自問するまでが青春というものだが、
そんなものが自分に振って湧くようなものでないことくらい分かっている。
それに運命の出会いが生と死を分ける現場であったことは
今も動悸がしてくる。
それもこれも今まで邪魔者でしかなかった意固地の原因の天邪鬼であったことは、
運命のいたずらというものだろうか
自身に楽しい学生生活が巡って来ないことの自覚はそれにあった。
小さい頃から周りに流されて行動をすることが嫌いであった。
だから人と仲良くすることが人一倍難しい性分であったからそもそも
人当たりのいい奴、理解を示してくれる者、同類としか相容れない。
その自分が彼女を助けたくらいで興味を持つことはおこがましいのでは、
と思い始めた。
しかし......
あの交わした目線、合わせた瞳が脳裏に焼きついて離れなかった。
ハッキリしないモヤモヤとした気持ちのままその日を終えた。
~~~~~~~~~~~~~~
「いってきまーす」
そのまま朝に起きてからも彼女のこと、
あの危険な場面がエンドレスで脳内上映されていた。
家の敷地を出ると挨拶のように冷たい風が吹いた、
明日は雪になるかもしれないなど冗談じゃない。
もう、今だけで吐く息が凍るように寒い。
うちは比較的都内の方に住んでおり、アクセスも良い。
ただそうやってデブ症になる世の中に俺は対抗して歩いて通える学校を選んだ。
だからと言って運動系の部活をやっているかというとお恥ずかしい話、
所属しているのはオカルト研究会だ。
現実の下らない情勢から逃れるために
自分は胡散臭いことを研究することで気を紛らわしているのだ。
現実にありながらも非現実なようなもの、
そんなものに自分を重ね合わせる時間は割りと充実している。
最初はまた天邪鬼効果でせっかく入部するなら、
人の数の少ない部活に入ってやろうと思ったのだ。
というより実際人の多い部活に入って己の本領を発揮して和を乱そうものなら、
イジメを受ける可能性だってある。
それくらいの予測が立たない男じゃない、
だから協調性が大事だとされる運動部などもってのほかであった。
そのため掲示板に募集も掛かっていないような幽霊活動団体を探し出し、
遂にオカルト研究会にたどり着いたのだ。
それもあって初期は当然歓迎ムードでは無かった、
倉庫部屋のようにひっそりと学校の端にあったオカルト研究会の部屋の扉を
開け放った時の部員たちの驚愕たるやバラエティ番組のようだった。
そうしてずかずかと部室に入って雰囲気を感じ取り
「気に入った!」
そう大きな声を張り上げて固まって動かない部員達に目もくれず、
そのままの勢いで担当の先生に入部届けを叩き付けた。
そんな荒くれ者が入って来ようものなら日陰者の彼らにとって
迷惑なこと、この上ない。
そのため、当然のように翌日から適当な机で自前のパソコンを開いて
ただ遊んでいるにも近いネットサーフィンをしていると
「なんだこいつ...」
という声が聞こえて来そうな目線を周りから向けられた。
しかしあっちもあまりコミュニケーションを取ることが上手い奴らではない。
追い出すか、仲良くするかも無く
お互い不可侵にして無言の圧力がぶつかり合う冷戦の様な関係が2ヶ月ほど経った時である。
パソコンを開いていつも通り流行のゲーム『缶コレ』をしていて
ガチャを引いていた時だ。
缶コレにはノーマルから激レアのランクがあるが、
激レア確定演出の音楽とムービーが出たのだ。
そうして無課金の意地でやっと溜めたチケ石×30個が無駄にならなかった事と、
季節限定の缶キャラが当たるという緊張感で画面を見つめる。
すると、お目当てのキャラが出たのだ!
「よっしゃ――」
「あ!水着金剛缶!!」
俺の渾身の雄たけびが誰かの声で遮断された。
画面に夢中になって他の奴が見ていることに気付かなかった、
ついつい出してしまった声に本人も恥ずかしそうであった。
そんな彼に俺は立ちはだかるように近寄る俺、
盗み見ことの粛清かと怯えるその男、
その状況を見守る者たちの緊迫感が漂う中、
俺が繰り出したのは......!
握手の手であった。
こうしてその場で初めて心を通じ合わせることに成功し、
その部員達との冷戦は段々と雪解けを始めたのであった。
そして今では過去を合わせても数少ない友達しかいない自分に、
温かいホームが出来たのだ。
まあ、それであっても現実は冷たく、
学校生活のほとんどはそのお友達のいない時を過ごす時が多く
研究会の活動日・部室解放日もマチマチだ。
そもそも本格的な活動や集まりもせずに同好会とは言え
よく存続出来ているな、とつくづく感じる。
そうしたグレー色の青春が板につきそうな自分に、
人を救出するという
現実にそうないビックイベントの余韻に取り憑かれているのだ。
そうして今日の同好会のことと相変わらずの彼女ことで
上の空で上履きに履き替える俺に
目を覚ますかのような
冷たい感覚が足にきた。
中にはいくつかの画鋲が入っていた。
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