色付く日常

第2話 打ち解け

さて、なんとか二人とも危ないフェンス越しの危機を越えた



フェンスを上がらせる時に見えたパンチラなど気にならないほどの


緊張感であった。




お互い走って逃げてきたかのような息の上がりようだ。




季節は冬、吐く息が白く


地面につく手がジンジンと冷えた。




「ふう~...なんとかなったな...」




その言葉に彼女はこくりと頷いた。





表情を伺わせないほど下がった髪は長く、


俗に言う貞子のように見えないこともないが


幽霊にさせず済んだのは確かなのだから余計な印象はもたないことにした。




さあここからが本当に大変だ。


先ほどの発言でもはや彼女の命運は自分が握っていると言っても過言ではない。




教師に任せたくもなるが、


その教師が力不足なばかりにこの子は死に掛けたのだ。


それでもこれから聞かされるであろうダークな話は自分としては気が引けた



「ええと...それでなんだけどさ、君は何であんなことを...したの?」



人の事情を聞くには少しトーンが高いような声が出てしまう。


空気を読めない天邪鬼はこういうところでもあるというのに直りやしない。



「...私が、私が悪いんです...」




彼女は俯きながら話し続ける



「まあ、そんな悲観しないでも...あ~そういえば君、名前は?」



「...黒田 奈々(くろだ なな)です...」



なんということだ、今も顔ハッキリ見せないから分からなかったが


まさかよく学年成績表でお見かけする首位組の黒田さんとは......



「黒田...さんね、ええっと俺はB組の渡辺 浬(わたなべ かいり)です


 えっと、よろしくお願いします」



あぐら姿で深々と頭を下げた、


それにしてもここからどう仕掛けたものか、いきなり本題?それとも......



「渡辺...浬さん...知ってます、この前の順位は111位でしたね」



「へ?」



111位という言葉に心当たりがなく変な声が出た、


しばらく考えるとうっすらと見当がついた



「その順位は...学力テストのこと...?」


「はい、そうです...」



うちの第2学年は確か130~150人くらいであった。


そこから考えれば俺は確かに成績的にはそれくらいかもしれない......




と、いうよりも何故そんなことを覚えているんだ?



「私...数字と人を結びつけて覚える癖があるんです...」



「は、はあ...」



「それで111って綺麗に揃ってたから遂覚えてしまって...」



そんな所で知られているとは思いもしない、どういう反応を取ったら良いのか......




「う、嬉しいなあ、成績トップクラスの人にそう言って貰えて~...」



にへらぁとした顔で答えると彼女は長髪を掻き分けて、


しっかりと目を出してこちらを見つめる。




思わず急に目を合わせられたのと


その目元が綺麗なことにドキッとした。



「あなたも...そう言うんですね」



その一言と共に目の奥の色が変わったような気がした。


とても深く冷たい色のような......



「先ほどは有り難う御座いました、では私は失礼します...」




そう深々とお辞儀をすると彼女はスタスタと何事も無かったかのように


階段の方に向かっていく。




ほんの少しの間、唖然として背中を見送りかけたが、



「...え!あ、ちょっと!」



すぐさま立ち上がって呼び止めようと走る。



一体どうしたのか?


今の会話中に改心したのか?


あっちの気が済んでしまったというのか、



いや、それで命を落とそうとするわけがない!



そう急いで黒田さんの後を追いかけて




階段の踊り場から下を見ると、




彼女の姿はどこにも無かった。

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