ジュエリーショップ「crown」



「冴草ちゃん、準備出来たか?」

 俺が玄関から彼女に声をかける。


「・・・・・?」

 ピョコっと部屋から顔を出した彼女は2着の服を持ってトコトコと俺の方に歩いてくる。


「・・・・・?」

 どっちがいいかって?

 右のメイド服と左のメイド服?

 すまん、どっちも同じに見えるんだが・・・


「・・・・・!」

 え?微妙に違うって?


 う〜ん?


 どこが?


 よくわからんが、右のほうで。


「・・・・・♪」


 うんうん。と頷いてまたトコトコと部屋に入っていく彼女。

 後で説明してもらおう。どこが違うのか。


 準備が出来た彼女と一緒に今日は表参道にあるジュエリーショップ「クラウン」を覗きにいく予定だ。


「クラウン」はいつぞやの千冬真夏さんが経営しているジュエリーショップで冴草ちゃんのジュエリーを扱ってくれている。

 今回は新作の納品も兼ねてちょっと覗いて見ようということになったわけだ。


「・・・・・♪」


 車で近くまで行き、ご機嫌の彼女を伴って表参道を歩く。

 あまり来ないところなので、彼女が注目を集める。

 金髪のとんでもない美少女メイドがリアルに歩いているのだから当然といえば当然なんだけど。


 しばらくすると目的地の「クラウン」に到着する。


 立地的にも申し分なく外から見ても結構なお客が入っているのがわかる。


「いらっしゃいませ」


「・・・・・♪」

「千冬さん、いらっしゃいますか?と言ってます」


「え?あの・・・どういったご用件でしょうか?」


 おお!この店員さんは普通の人みたいだ!


「・・・・・?」

「そのジュエリーのデザイナーが新作を持ってきたからと言ってます」


「あの?こちらのお嬢さんが?ですか?」

「ええ、呼んで頂ければ分かりますよ」


 半信半疑の店員さんは首を傾げながら奥へと入っていった。


 待つこと3分。

 ちょうどカップラーメンが出来上がるくらいで奥からパタパタと千冬さんがやってきた。


「まぁ〜冴草ちゃ〜ん!ん〜今日も可愛いわ〜」

「・・・・・♪」

 冴草ちゃんにヒシッと抱きつき頬ずりする千冬さん。

 それを何とも言えない顔で受け入れる冴草ちゃん。


「それで、今日はどうしたのかしら?」


「・・・・・・」


「まぁ!それで?」


「・・・・・?」


「・・・・・!」


「・・・・・♪」


「・・・・・♪」


 なぁ?エスパー同士の会話って周りにとっては迷惑以外の何者でもないんだぞ?


 いやいや、何笑いあってんだよ?

 うんうん、じゃねーよ。


「・・・・・・」

 え?用事は済んだから帰るって?

 彼女は千冬さんに小さな袋をポンと渡してトコトコと俺の方にやってくる。


「・・・・・♪」

 へ〜、信用してもいい人だって?

 珍しいな?冴草ちゃんがそこまで言うのは。


「・・・・・?」

 ゴリラや乙さんと同じ人種だって?

 ああ、なるほどな。


 ご満悦の冴草ちゃんをぶら下げて表参道に出る。


「・・・・・♪」


 ぶらんぶらんと腕にぶら下がって遊ぶ彼女を周りを行き交う人々が微笑ましく見て通り過ぎる。


 あの・・・この子、子供じゃないですから。


 俺はそうツッコミを心の中で入れながらぼちぼちと家に帰っていった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る