かくれんぼをしてみよう(家の中で)



まだ外は薄暗く雨が降る音が僅かに聞こえる。


俺はベッドで寝返りをうつ。


「・・・ん?あれ?」

ベッドの中にはいつものように一緒に寝たはずの彼女の姿がなかった。


「トイレかな?」

俺は眠たい目をこすりながらベッドから這い出してリビングにいく。


冷んやりとした空気のリビングには人の気配はなく、キッチンやトイレにも彼女の姿はなかった。


「こんな時間に出かけてるのか?外は雨なのに?」

玄関に行ってみると彼女お気に入りの靴はちゃんと揃えて置いてあった。


「部屋かな?」


俺は彼女の仕事部屋へと行ってみる。部屋のドアにかかったプレートには彼女の丸っこい文字で「入るなキケン」と書かれていた。


「不在か?」


一体どこに?俺は再度家の中を探してみる。リビング、キッチン、トイレ、バスルーム、ベランダ。


探してみたけどやっぱり彼女は見つからない。

違う靴で外なのか?

だが玄関のキーチェーンは内側からかけられていた。


「くっ!まさか・・・」


俺はこの時一つの可能性に行き当たった。

それは今日の夕食の時だった。



「なぁ冴草ちゃん、明日はどうする?雨だし家でゆっくりする?」


「・・・・・・」


レンゲで麻婆豆腐をすくいつつコクコクと頷く。


「家の中ですることってあんまりないだろ?仕事も今のところ溜まってないんだろ?」

足元にしがみつくQ太郎に水菜を上げながら俺は彼女に聞いた。


「・・・・・♪」


「は?かくれんぼ?何でまたかくれんぼなんだ?」


「・・・・・・」


小学校の頃から俺には一回も見つかってないって?

ほほぅ、この狭くはないが広くもない家の中でだぞ?


「よぉし、絶対に見つけてやるからな!」


「・・・・・♪」


見つけれたらサービスしてあげるって?いや、いつもしてもらってるだろ?


え?もっとスゴイやつ?



・・・なんて話をしたんだが、まさかのこのタイミングでか?


俺はこの後、家の中を片っ端から開けて回ったが彼女を見つけることは出来ずスゴスゴと寝室に戻り降参を宣言した。


「冴草ちゃん!やっぱり無理!降参!」


俺が降参宣言をするとすぐにドアが開いて満面の笑みを浮かべた彼女が入ってきた。


「いったいどこに隠れてたんだ?冴草ちゃん」


「・・・・・♪」


内緒ね、すぐに入って来たってことはリビングか?

う〜ん、わからん。


彼女はピョンとベッドに飛び込んでいつものように俺の腰あたりにしがみついておやすみの体制を整える。

くせっ毛の金髪がくすぐったくて撫でてやると嬉しそうに目を細めて俺の胸あたりからよじ登ってくる。


「・・・・♪♪」


特別にサービスしてあげるって?

ペロリと舌なめずりをして笑う彼女。


してあげる、じゃなくてしたくなったんだろ。

彼女の細くてしなやかな小さな指が俺の顔をなでる。


こりゃ今日はもう寝れないな。



そんないつもと変わりない日常だった。


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