仕事する日もある


「冴草ちゃん、コーヒー淹れたよ」

 俺は、昨日の夜から部屋にこもって珍しく仕事をしている彼女の部屋のドアをたたく。


『のうきやばいあけるなきけん』


 ドアには丸っこい文字でそう書かれたプレートがぶら下がっている。


 カチャ


「・・・・・・」


 小さな手が、にゅっと出てきてマグカップを取ってひっこむ。バタン。

 ホラーかよ?


「晩御飯までには出てくるんだぞ〜」


 とりあえず一声かけてリビングに戻る。

 月に一回くらいはああして仕事部屋に籠ることがある彼女。

 一応そこそこ名の売れたデザイナーなので、仕事の依頼は結構きているが気に入らないと受けないし働かない。

 今回は、「ハンプティ」経由での仕事なので受けたのだろうが、遊びすぎてギリギリになっているのだ。


「やれやれ、美味い晩御飯でも用意して労ってやるか」

 冷蔵庫の中を覗き今日の献立を考える。

 たまには魚もいいな。



 カチャ


「・・・・・・」

「おっ、ご苦労さん。無事終わったか?」


 9時を回ったくらいに彼女が部屋から出てきた。

 げっそりしてフラフラと歩く姿はどこぞのゾンビ映画さながらだ。

 俺は彼女を小脇に抱えてリビングへ連れていく。


「ほら、食って元気だせ。」


「・・・・・・」


 食卓をジーッと見つめる彼女。

 うんうんと頷く彼女。

 おもむろに箸とスプーンを両手で器用に使って猛然と食べ始める。


「冴草ちゃん。料理は逃げないから」

「・・・・・!」

 何驚いた顔してんだよ?




 夕食後、リビングのソファーでコーヒーを飲みながら寛ぐ。


「・・・・・♪」

 定位置である俺の膝の上でご満悦な彼女。

 くせっ毛でふわふわの髪を撫でてやり仕事の成果を聞いてみる。


「・・・・・・」

 なるほど、満足のいく仕事ができたと、そうかそうか。よしよし。


 しばらくして俺にもたれてうとうとし始めた彼女を抱き上げてベッドへと向かう。


 目をしょぼしょぼさせて俺にしがみつく彼女をそっとベッドに降ろして横になる。

 小さな寝息がすぐに聞こえてくる。


「おやすみ、ご苦労さん」













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