コーヒー豆を買いにいこう


「・・・・・♪」


 今日は朝から2人でお出掛けをしている。

 コーヒー豆が昨日の夜でなくなったので、行きつけの喫茶店に買いに行くことになったのだ。


「冴草ちゃん?歩く気ないの?」


 うちを出てから彼女はずっと、力こぶを作る感じでL字にした俺の腕にぶら下がってご満悦。


「・・・・・?」


 いや、なんで?って顔で見られても俺が困る。


「まぁいいけどさ。この時間だとモーニングに間に合いそうだな」


 いつもは彼女が昼まで寝ているので中々この時間、つまり午前中に出歩くことがない。

 コーヒーをこよなく愛する彼女は、コーヒーのためなら早起きできるらしい。


「・・・・・♪」


 ぶら〜んぶら〜ん


 ちなみに今日の彼女はゴスロリである。

 平日の早朝、通勤中のサラリーマンの方々が何事かと振り返る。ことごとく振り返る。


 レスラー並みの体格の俺にぶら下がっているゴスロリの幼女(22才)。


「いつもながらどんだけシュールな絵面だよ・・」

「・・・・・・」


 ドンマイドンマイって笑顔で見上げる冴草ちゃん。


「ほら、もう着くぞ」


 以前なら職質の嵐だったのだが、毎日だったため近所のお巡りさんも慣れたのか、生暖かい目で見るだけになってきた。



 喫茶店は、洒落た西洋風の建物でこのあたりでは隠れた名店として有名だ。



 からんからん〜


 店内はコーヒーのいい香りが漂い、何組かのお客さんがモーニングを食べている。


 店内のカウンターにはコーヒー豆の入ったガラス瓶がズラリと並べられ、お客の好みの豆を挽いて淹れてくれる。


「・・・・・♪」


 彼女は、俺の腕から飛び降り、てててとカウンターに走っていく。

 よいしょっと抱っこして椅子に座らせてあげる。


「よう、マスター。モーニング2つと豆。豆は彼女に聞いてくれ」


 俺も彼女の隣に腰掛けてカウンターの向こうのゴリラに言う。


「珍しく早いじゃねえか?まだ昼前だぜ。」


 ゴリラがモーニングの用意をしながら笑いかける。


 喫茶店「ソレイユ」のマスター。通称ゴリラ。

 筋骨隆々の巨体、190ある俺より頭一つくらいデカイ。ムキムキの体に剛毛。


 料理人としての腕前はピカイチらしく有名ホテルでシェフをしていたらしい。ゴリラなのに。


「ほらよ」


 モーニングを2つ、俺たちに出して


「嬢ちゃん、今日の豆はどれにすんだ?」

「・・・・・・」


 トーストを齧りながら彼女はじっとゴリラを見つめる。


「ブルマンとモカにジャワだな。瓶か?袋か?・・・おし、袋だな」


 ……いつも思うがあんた、エスパーか?

 彼女の言いたいことは俺も大体わかるんだが、今のでわかるもんなのか?


「・・・・・♪」


 正解らしい。ゴリラおそるべし。

 コーヒーをこくこくと味わい笑顔満開のゴスロリな彼女。

 コーヒー豆を袋に詰めて彼女に渡すゴリラ。


 ・・・犯罪の匂いしかしない光景だ。


「ごちそう様、じゃあまたなくなったら」


 そう言って俺は、彼女を小脇に抱えて店をでる。


「・・・・・♪」


 そのまま俺の腕にしがみついて楽しそうな彼女を連れて帰路についたのだった。



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