10 片瀬日和
女性がどこかへ歩き去ったのを見て、僕は邪魔にならない所に買い物かごを置いた。
ある意味無責任な行動だし、こういうのは本当はいけないんだろうけれど、状況が状況だししょうがない。
それに……。
あの人は、登場人物じゃなかった。
親子の方も本筋の物語には何の関係もない。
だから、こんな僕にもできることはあるはずだ。
僕は、母親に寄り添われている小さな少女の元へと向かった。
「偉かったねー。怖いお姉さんだったねー。大丈夫だよ。神様はちゃんと頑張った子のこと見てるから、ご褒美とかをくれると思うよー」
そう言って、少女の頭を撫でながら母親の方に目配せ。
常備していた飴玉を数個、こっそりと少女のポケットの中に忍ばせておいた。
「……」
何かを言おうとした母親だが、小さく頭を下げるにとどめたようだ。
さて、もうちょっとだけ寄り道していこうか。
スーパーを出ると、すぐにその人は見つかった。
近くにあるバス停でバスを待っている様だ。
とするとこの近くにいる人間ではないのかもしれない。
「君、大人げない真似するよね」
話しかけられた女性は打って変わって、首を傾げながら何のことか分からないというポーズ。
「どなたでしょうか? 初対面かつ目上の人に親し気に話しかけられるような事しましたか?」
顏も服装もさっき親子に話しかけた人と同じだ。
人違いではなさそうだけれど、あまりの態度の違いに双子か三つ子でもいるのかと思ってしまった。
「あの親子が君の何の勘に触ったのか知らないけど、君のストレスのはけ口にされて良い様な人達ではないと思うけどな」
だけど、そういう特殊な家計でも何でもなく、ただ皮を被るのが得意な方だったようだ。
「あら、気づいてたんですか。そうですね。少し大人げなかったかもしれません。でも私は悪い事はしてませんよ。大人として事実を述べて、指摘するべき事を指摘しただけです。だって、私は記者ですから」
「へー」
前半の主張はちょっと興味あるけど、後半の役職には特に興味が無かったので軽く聞き流した。
だっての所に、正しい因果関係があるようには見えない。
「この辺りは記事になりそうな事柄が多いわりに、担当する者がいなくて困っていたんです。災いの神に、異形の化け物、異界への入り口、胸がおどりますね」
しかし、そんなこちらの態度にも気が付かず陶酔したような表情で話し続ける記者さん。
ちょっと危ない人なのかな?
「何か面白い事がありましたら私に連絡してください。では失礼します」
別に仲良くなりにきたわけでもないのに、なぜか名刺を渡されてしまった。
女性の対人関係が心配になる。
計ったようにバス停にやって来たバスに乗り込み、女性はその場から去って行く。
名刺を見てみると、名前の欄には……。
『
と、書かれていた。
ぜんぜん日和ってそうな人物には見えなかった。
名前のイメージとは違う人格で、ある意味凄く強烈に記憶に残りそうだ。
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