05 質問タイム
目が合ったのに話もしないのもアレかなと思ったので。
「剣と魔法の世界に行ってみたいと思う?」
何となくそう尋ねていた。
「?」
冷静に考えてみると、なんておかしな質問だろう。
だから、問われた彼女はきょとんとした顔で、小首をかしげて。
それからうーんと悩みだした。
それでも会話に応じてくれるのは、彼女の性格ゆえだろう。
印象通りに、真面目な子みたいだ。
「ちょっと興味あるかな。異世界には行ってみたいけど、よくあるアニメとかみたいに魔王様とかを倒すのは大変だと思う」
「だよねー」
それが普通の人の感想だ。
彼女の感性は、普通の女の子と変わらないようだった。
彼女は「あ、でも」と続ける。
「魔法は使ってみたいな、空を飛んでみたいかも」
確かに空は飛べたら楽しそうだ。
僕も最初に見つめたのは空だし。
人間という生き物は、どうやら空は飛べないようにできてるみたいだし。
できないと言われるとやりたくなるのが自然。
マンションの屋上から眺めた光の海を思い出す。
夜の空にまたたくものとは違う人工的な光の数々。
あの煌びやかな光の海に飛び込むのはきっと気持ちがいいだろう。
会話をしているうちに、時間がちかづいてきた影響か、周囲を通る人の姿が多くなっていた。
そろそろ移動した方が良いかもしれない。
「人が多くなってきたよね。そろそろ並んだ方がいいかもしれないよ?」
だから、そう提案するのだが、彼女は最初の時のように困った顔になってしまった。
そういえばよく分からない会話で忘れていたけれど、彼女は何か頭を悩ませている様だった。
「……実は私、転校してきたばかりなの。今日から初めてこの学校に通うんだけど、どこに並べばいいのか分からなくて」
「あー、なるほど」
つまり僕と同じような境遇というわけだ。
新しい転校生が事件に巻き込まれて主人公に。
よくある流れだった。
「クラスは分かってるんだけど、場所がね。5の2なんだって……。校長先生から教えてもらってるから」
「僕と同じだね、じゃあ案内するよ、こちらへどうぞ御嬢さん」
「御嬢さん……?」
胸に手をあてて一礼。
芝居がかった動作で行く先を示して見せると彼女は目を丸くして、どう反応すればいいのか分からないといった顔だ。
初対面の相手にするような行動じゃないというのは分かってた。
つまりわざと。
内心で笑いながら、ごまかした。
「なんちゃって。こっちだよ」
そして、混雑してきた体育館の中を先導していく。
互いに初めての場所であるはずなのに、何も知らない自分が同じく何も知らない人間を案内しているだなんておかしな事だ。
いずれ主人公になる少女が、駒にすらなれない自分の後ろを歩いているのがおかしくて、少しだけ……なぜか胸が苦しい。
後ろをついてくる少女が、周囲を見て人の間を縫いながら歩きつつ、こちらに声をかけてきた。
「貴方って、ちょっと変わってる人なんだね。あ、私の名前は姫乃。【
「お姫様が文字に入るかー、可愛い名前だね」
「か、かわいい? ……そんなこと」
「僕の名前は勇気。勇気……うーんと、じゃあ啓区でいいや。【
「え? うん、こちらこそよろしくね。勇気さん」
こうして、ただの駒と主人公のファーストコンタクトは果たされた。
いずれ誰の記憶にも残らない【はず】の、世界に刻まれないはずの世界の【
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