第24話 幼馴染③

 王都全体に騒ぎを広げた事でランカが逃げやすくなった。フェクトにランカを守らせるのは心配でならないが、それより圧倒的に危険な敵がいる。


 神学長にして狂信者、バートマ・ウォースイ。


 フェクトに味方はいないが、バートマには神学長という立場がある、修道会がいる。この男が本当にランカを狙う敵なら、必ずこの世から葬り去ってやる。


 混乱に乗じて貴族街に潜入する。ウォースイ邸から王城への道を辿っていく。


 見つけた。バートマは修道会に指示を出して歩いている。数は四人。次々にバートマから離れて与えられた任務を果たしに行く。


 残ったのは一人、動きからして護衛だ。俺は後ろから素早く接近して護衛の喉笛を掻き切り、バートマの首に刃を沿えた。


「大人しく付いて来い。余計な事をすれば殺す」


 バートマは静かに従った。貴族街はどこも綺麗で身を隠せる場所はほとんどないが、気休めでもと脇道に入って仕切り直す。


「バートマ・ウォースイ。お前の目的は何だ」


「この騒ぎを鎮める事だ」


 声は冷静そのもの、手に伝わってくる脈動も落ち着いている。


「違う。なんでランカを狙う、答えろ!」


「狙う? 何を言っている」


 バートマの首に刃を押し付けた。


「少しでも動かせば首が切れる。人殺しに躊躇しないのは分かってる筈だ。許すのは今の一度だけだぞ。……答えろ」


「説明不足で答えようがない」


 声色に変化はない。脈動も同じ。稀に勘違いした馬鹿もいるが、この男は馬鹿じゃない。状況は理解している。それなのに死の恐怖を感じていない。恐ろしい程の精神力だ。


「お前は旅に出たランカを修道会に殺させようとした。その理由を聞いてるんだよ」


「娘を殺す親はいない」


 側頭部を殴った。バートマが呻きを漏らす。しかし、相変わらず平静さを保ったままだった。


「そんな奴らは腐るほど見てきた。一人娘を奪った外道なら簡単だろうが」


「……ランカの知り合いか」


「俺の正体より自分の命を心配しろ。さあ、俺の質問に馬鹿みたいに答えろ。なんでランカを殺そうとする」


「ランカは優秀な子だ。あの頭脳は必ずや国家の繁栄に寄与する。だからこそ私はランカを引き取ったのだ」


 かっ、と頭が熱くなった。


 殺してやる。腕に力を籠める。後は腕を引くだけだ。だが、どこかが引っ掛かる。

「そんな下らない理由で、小さい子供を親から引き離したのか!」


「私にとって、国家への忠誠が至上の命題だ」


 殺気を感じた。


 バートマから手を放して横に飛ぶ。剣が、今いた場所を切り裂いた。


「ご無事ですか、神学長」


 フェクトの兄、ブライト・マルガントがバートマを背中に隠した。俺は剣を構えて少しずつ後ろに下がっていく。


 バートマは屑だ。


 でも、ランカの敵じゃない。狂信者でもない。


 国家への忠誠に取り付かれたこの男が、ランカを狙っている事を隠すわけがない。直ぐに国王に報告して国ぐるみでランカを捕まえようとする筈だ。貧民街の惨殺だって、そんな無駄な時間を使うとは思えない。


「ここにもいやがったぞ!」


 馬鹿共が現れた。ブライトの注意がそっちに向く。俺は一気に逃げ出した。


 ランカが危ない。


 敵は他にいる。狂信者がランカを狙っている。

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