第11話 剣の制裁

 一度尋ねただけで、眼付きの鋭い禿散らかった男の行き先は明らかになった。


 男の名前が先行し、通り過ぎるだけで誰もがその先を指し示す。果ては道案内する者まで現れて、辿り着いたのは奥まった場所にある空き地だった。


 放置された建材に座った禿散らかった男が、緩やかに手を叩き鳴らす。


「流石は夜の王様。民草に慕われてんな」


「剣はどこだ」


 禿散らかった男は何も持っていない両手を見せびらかした。


「お前は肥溜めの住人の上に立ち、そのお陰で王都の治安は少しだけ良くなった。同僚の何人かはお前を誉めてたぜ。肥溜めの住人は言えずもがなだ、毎日毎日馬鹿みたいにお前と騒いでやがる」


 フェクトは軽くなった腰をさすり、深く息を吐く。


「……剣を返せ、大将」


 禿散らかった男は腰を上げ、右手を掲げた。途端、そこここから男たちが現れた。誰もが棒きれ手をにして優越感に浸っている。ほとんどは暴漢だが何人かは衛兵だ。

「全員が全員、お前を歓迎してると思うなよ。こっちはこっちで仲良くやってたんだ。それをお前が全部破壊して、それどころか王様ぶってやがる。……ぶち殺すぞ」


 敵は十二人。ゆっくり数を確認して、フェクトは怒りを息と一緒に吐き出した。


「もう一度だけ言葉を使ってやる。剣を返せ、大将」


 禿散らかった男は、悠々笑みを浮かべた。


「良いのか、フェクト。俺は知ってるぜ。お前親父に睨まれてるんだろ? だから酒場でも大人しくしてた。ここで暴れても良いのか。衛兵である俺相手に、喧嘩売って良いのか」


 周囲の暴漢たちが、じりじりと寄ってくる。


「何、お前は腐ってもマルガントの人間だ。殺しゃしねえよ。俺たちも睨まれたくはねえからな。黙っていたぶられて、以降はずっと大人しくしてろ。大丈夫、理由をつけて田舎者を守ったお前にはお似合いだ。これからは真っ当に生きな。元、夜の王者様」


 痙攣するこめかみを揉み、フェクトは深呼吸をする。


「大将、なんで俺がお前の事を大将って呼ぶか分かるか? 猿山の大将って意味だ」

「やれえ!」


 禿散らかった男が怒鳴る。暴漢たちが走ってくる。


 十秒で決着した。


 地に伏した暴漢たちが呻いている。フェクトは禿散らかった男の胸を踏み、その腫れ上がった顔に唾を吐いた。


「剣はどこだ」


 禿散らかった男はせき込み、血の混じった唾を口から垂らす。


「……俺が座ってた木の裏だ」


 胸を強く踏みつけてから、フェクトは建材の裏を見た。柄巻きがぼろぼろの剣が寝かされている。腰に戻して付け心地を確認し、また禿散らかった男の胸を踏んだ。


「剣は返しただろ……」


「俺が取り返したんだよ。誰に唆された?」


「誰にも唆されてねえよ……」


 フェクトは喉の奥で笑い、脚に力を込める。


「どんな情報で踊ったのか聞いてるんだよ」


 禿散らかった男は、腫れ上がった顔を苦痛に歪めた。


「答える! 答えるから止めてくれ。……話すのもきついんだ」


 足の力を少し緩める。禿散らかった男が目線でさらに緩めるよう言ってきたが、フェクトは一度力を入れて応えた。


「お前が持ってる情報は、親父の堪忍袋の緒が切れた事、だから俺が大人しくしている事。で、他にあるだろ。おそらく、俺が破滅すると踏んだから襲ってきた。違うか」


「……お前と女の事を聞きまわってる奴がいるらしい」


「誰だ」


「知らない」


 捻りを入れて、禿散らかった男の胸を踏んだ。


「お、俺も調べた! だが分からなかった。だからこそ確信した。フェクト、お前はやばい奴に眼を付けられたんだってな」


 この男は無能ではない。犯罪者に買収されて懐を暖かくしているあくどい衛兵だが、その分情報通で方々に顔が利く。その男が、素性を掴み切れていない。


 フェクトは、禿散らかった男の胸から足を退けた。


「お前は腐っても衛兵だ。殺しはしない。俺も睨まれたくはないからな。黙っていたぶられて、これはもう済んだな。以降はずっと大人しくしてろ。以下略」

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