第10話 幼馴染①
ランカと再会したのは、酒場で馬鹿騒ぎしていた時だった。
後悔と怒りが俺の中で激しくのたうった。内側から肉を食らい、皮膚を突き破り、周りの人間に襲い掛かっていきそうだ。
何故、俺は忘れていた。
農村育ちでも、ランカの優秀さは評判だった。それが災いして遠縁のウォースイ家という貴族に奪い取られ、ランカの両親は失意の中で死んでいった。
俺はランカの両親に託された。ランカを頼むと。歳は離れていてもランカとは兄弟のように育った幼馴染だ。当然、任せてくれと答え、ランカのいる王都に旅立った。
それなのに、忘れていた。
先行きの見えないその日暮らしの生活がきつかったからか。毎夜毎夜の馬鹿騒ぎが楽しかったからか。今となっては分からない。ただ、忘れていた。
あの日から数年、大人しくもいつも穏やかな顔をしたランカはどこにもいなかった。全ては俺が約束を忘れていたからだ。もっと早く、一度でも会う事ができていれば、ランカの表情が失われる事はなかった。
後悔するのさえ遅すぎた。だが、俺は思い出した。
これは二度目の誓いだ。だからこそ、何物にも代えがたい。俺はランカを守る。ランカを救う。命を懸けて、全てを懸けて。
その時になって、ランカがフェクトと話している事に気付いた。
フェクトを護衛として雇おうとしている。咄嗟に、俺が護衛になると言いそうなった。しかしその必要はなかった。フェクトは断った。当たり前だ。あのフェクトが受け入れるわけがない。そもそも、フェクトはランカと関わってはいけない人種だ。俺の心配を他所に、ランカは諦めて酒場を去った。
その数日後、ランカとフェクトは旅立っていった。
訳が分からなかった。裏で何かが行われたのだろうが、ランカがフェクトを頼る理由も、フェクトが受け入れる理由も想像すらできなかった。
分かっているのは唯一、フェクトは危険だという事だ。
フェクトの事は、奴が十二歳で王都に来た時から知っている。フェクトはランカの味方なんかじゃない。ランカの身を守ろうとするわけがない。むしろその逆だ。
俺は急いで二人を追って王都を出た。
追跡は簡単じゃなかった。フェクトは腐ってもこの国一番の武門の家の出身だ。近すぎれば簡単に気付かれる。道中で二人の姿を見られたのは数える程だった。
でもそのお陰で、俺以外にも二人を追っている人間がいる事に気付いた。と言っても、ランカを守ろうと戦えばフェクトに気付かれる。差し迫った危機がない以上、できる事はなかった。
そうしている内にトロネット山に辿り着いた。やたらと森が深く、地元民ですら近づかないという怪山だ。そこで、全員が動いた。
ランカはトロネット山に逃げ込み、謎の集団が追った。そして、フェクトは姿を隠した。
確信した。やっぱりフェクトはランカの敵だ。俺は急いでトロネット山に入り、ランカを助けようとした。しかし、そこは怪山だ。俺はランカどころか謎の集団を発見することすらできず、山を出てきてしまった。
無力さに対する怒りで、顔から血が噴き出している気がした。その時だった。異様な光と揺れを感じた。気付いた時には、トロネット山が消えていた。
しばらく状況を理解できなかった。ランカの事を思い出して我に返り、急いで辺りを見渡した。幸いな事にランカは見つかった。真夜中で遠くにいたからはっきりしなかったが、俺が見間違うわけもない。不幸なのは、フェクトが一緒だったことだ。
そこで疑問が浮かんだ。
何故、二人は生きている。俺と違ってトロネット山の奥深くに入っていた筈だ。同じくトロネット山にいたあの謎の集団の姿はどこにも見えない。多分トロネット山と一緒に消えたんだろうが、二人は平然と立っている。
いや、どうでも良い事だ。二人はトロネット山が消えた理由も知っているだろう。多分、それこそがランカの目的なんだろう。でも俺の目的はランカを守り、救う事だ。
二人は王都の方角へ歩き出した。それなら俺も早く王都に戻り、フェクトの魔の手からランカを守らなければ。二人の姿が見えなくなったのを見届けて俺も動き出す。
そこで、見た。
誰かが走り去っていく。人相は分からなかったが間違いない。二人を追っていた謎の集団の生き残りだ。
その向かい先は、王都か。
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