第17話 ま、まさかこの人は王の……?
突飛だとは思うけど、突飛なだけにその考えが頭から離れない。
もう一度、目の前の青年を見つめる。
——もしこの人がゴブリン子ちゃんのご主人だったとして。
翼は?
どう見ても、普通の人間よね?
なぜ懐かしいと感じるかは別にして……
自分が死ぬ以外の方法でゴブリン子ちゃんの『名付けの宿命』を解いたというなら、別のゴブリンを僕として連れていることにもなるはずだ。
もちろん、そんな様子はない。
いや、そのゴブリンも身を隠しているのかもしれない。
でもでも、やっぱりどう考えても突拍子もない話よねえ……
「何か、僕の顔についていますか」
青年が言う。
「何か、変ですか」
「いえ——というか、そちらの方こそあたしの顔をじろじろ見ていらっしゃいますよね」
青年は苦笑した。
「ああ、これは失礼しました」
「おい、そこ!」
護衛兵の一人がこちらに向かって叫ぶ。
「何をひそひそ、話してるんだ。お前たち何か、様子が怪しいな」
酒場中の視線があたしたちに集まる。
これは本当に避けたかった事態だ……
見ると、青年も血の気の引いた顔をしている。
「すみません、ちょっと飲み物の追加と、勘定について話していたもので……」
青年は軽く護衛兵に頭を下げた。
そこであたしたちの会話は途切れた。
あたしは目立たないように働きながら、考えにふけっていた。
(あの人がゴブリン子ちゃんのご主人様かも、っていうのは確かに突飛すぎたけど。
でも、あの人、やっぱりおかしいのよね。
二日前も、今も、冒険者という割に上品で清潔感に溢れてる。爽やかなコロンの香りまでさせて)
黙々とカウンターで軽食をつまむ青年の所作も、やはり品がある。
(最初は警備兵かとも思ったけど、それにしてはあまり護衛兵と協力する気もないみたいだし……護衛兵に声かけられて、青ざめたりしちゃって)
あたしは考えをまとめようとした。
(まず、彼は聖女の行方を追っている。そして冒険者でも、たぶん兵でもない。高価なコロン、上品な物腰——)
ま、まさか。
この人、王の関係者じゃないわよね!?
王の直命を受けてこっそり動いてるとか……?
そうだ、そういえば王の長男、年の頃は彼ぐらいじゃなかったかしら。
王子と言うなら、どこかで肖像画でも見たかもしれない。印象薄くて思い出せないけど……
それで懐かしいと感じてるのかも……!?
(ちょ、ちょっと待って、あたし!)
次から次へと飛び出てくる突飛な発想に、自分自身も頭を抱えたくなってしまった。
あたし、大丈夫かしら。
絶え間ないストレスで、どうにかなっちゃったのかもしれない。
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