第13話 ヒナの翼と、あたしの容姿

「知らなかったわ……本当にありがとう、ゴブリン子ちゃん」



 ゴブリン子ちゃん達はあたしたちを守ろうとしてくれた。


 でも、結局その時ご主人も魔法を受けて。


 あたしを助けてくれた人を、巻き込んでしまう形になったのか。


 あたしは心から、すまないと思った。


 結果的にご主人は失踪し、ゴブリン子ちゃんはこうやって一人でさまよう羽目になって。



「あなたのご主人にも、あなたにも、とんだ迷惑をかける羽目になって……ごめんなさい」


「いえ、謝らないでください。ナギ様のせいではないのですから」


「でも——」


 あたしは唇をかんだ。



 ——確かにあたしはあの時、とっさにああやって身を守るしかなかったのだ。


 本当に申し訳ないけれど——


 あたしは、腹の底から怒りがわき上がってくるのを感じた。



 そもそも、悪いのはあのへっぽこ魔術師! まともな術も使えずに、大きな顔して。


 ていうか、あたしを聖女に、なんて言い出した占い師はもっと悪い! 豊穣の星って何よ、失礼な! 


 ——いや、大もとを突き詰めれば、諸悪の根源は聖女制度なんかを続けているこの国そのものなんだけどね!


 まったくもう、おかしいでしょ!


 あたしが王や大臣だったら、そんな制度すぐに廃止よ廃止!


 ……なんて、今更そんなことに怒ったって、どうにもなりはしないんだけど……。



 あたしはゴブリン子ちゃんにもう一度尋ねる。



「……で、あなたがあたしたちを窺っていた理由が今ひとつよくわからないのだけど」 



 ゴブリン子ちゃんは、ごくり、と唾を飲んだ。


「ワタクシがあなた方について回っていたのは……」



 彼女が、一番大切なことを言おうとしているのがわかって、あたしも唾を飲んだ。



「ヒナ様の青い翼。そしてナギ様の容貌——どちらも、明らかにご主人様のものなのです」


 え!?

 翼や容貌が……?


「あの妙な魔術の作用に違いありません……あの魔術師、ヒナ様を片付けるなんて言って、てっきり殺そうとしているのかと思ったのですが……三つに分散されたとはいえ、姿が変わるような魔法って、いったい何がしたかったのか、本当ワタクシにはわかりかねます」


 ……ていうか、待って。

 じゃあゴブリン子ちゃんのご主人は、青い翼の生えたゴブリン!?

 翼のあるゴブリンなんて、いた!?


 ちょっと混乱気味のあたしをよそに、ゴブリン子ちゃんは言った。 


「とにかくお二人がご主人様の容貌をお持ちなので、ワタクシは……もしお二人と一緒にいれば、そのうちご主人様に会えるかと思ったのです……理由になってないかも知れないですが、もうワタクシには他の手がかりがなくて……」



 もしかしたらもしかして、青い翼のゴブリンが、いつかあたしに会いにくるかもしれない。



 あたしとヒナは、しくしくと泣き続けるゴブリン子ちゃんを尻目に、今後の波乱に満ちた逃亡生活を思って、げんなりと視線を交わした。

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