第12話 へっぽこ魔法の被害は甚大!

「事情はどうあれ、あなた方が攻撃されているのをワタクシ達は見過ごせませんでした」


 あたしがあの夜のことを思い返していると、ゴブリン子ちゃんは言った。


「ワタクシ達は、ナギ様もヒナ様も、生まれた時から知ってます。そちらはご存じなくても、ワタクシどもは人間といつも密かに共存する道を選んできたのです——特にナギ様は同じ家に住んでいるので、ある意味家族も同然なのです」



 半信半疑ではあったけれど、これには驚いた。


 まさか、この世に自分たちのことをそういう風に思っているモンスターがいたとは。



「あの夜、ワタクシとご主人様も、あの場所——あなた方が追い詰められていた森のはずれにいました」



 ゴブリン子ちゃんは、真剣に聞くあたしたちを見て、急に饒舌に話し始めた。



 彼女は主人の命令で、あたしたちを助けるため、急いでたくさんの魔法陣を張ったこと。あたしたちが身を隠せるように。


 あちこちに——昔からあたしたちがかくれんぼや秘密のおままごとに使った場所など、思いつくところすべてに。



「かくれんぼなんて……じゃあ、あたしたちのことは本当に何もかも知ってるっていうの?」


「何もかもというか、少なくとも良い隣人程度には。——ナギ様たちが小さい頃は、お怪我をなさらないようにおそばで見ていたこともあったんですよ。もちろん人間の目には見えないような形でですが」


 黙り込むあたしに、ヒナが耳打ちする。感動したように。


「ナギ様、『見えざる家の守り神』ってきっと彼らみたいな存在のことなんですよね!?」


 ヒナのように単純に感極まったりはしないけれど、さすがに何だか不思議な感じがして、詳しく聞いてみたくなった。


 が、今はもっと大事な話がある。



「ありがとう。……ぜひ今度ゆっくり聞かせてね。で、さっきの話の続きだけど——」


「あ、そうでした。ええと——あ、魔法陣でしたね」


 ゴブリン子ちゃんは慌てて話を続ける。


「魔法陣というのは、ある特製の薬が必要なんです。まず、ワタクシどもゴブリンの涙に加えて、幾つかの匂い草を混ぜます。そのあとの材料が特に大事で、新月の翌朝のヤマユリにたまる朝露と、満開の白ユリの花びらと、陽の光を受けて金色に輝く蒲公英の——」


「いや、だからそうじゃなくて。あなたは結局どうしてあたしたちを窺っていたのか、の続きは?」



 苦笑しつつ、今度は努めて冷静に言ったけど。


 この子もしかすると、花、となると夢中になって脱線していっちゃうのかな。


 花が好きなのね。


 頭に飾ったヤマギクといい。



「あ、申し訳ございません、そうでした」



 ゴブリン子ちゃんはハッとしてあたしの顔を見た。


 さっきのようにあたしが苛ついてはいないことを見て取ったのか、安心したように続ける。


 今度は、じっとヒナの背の翼を見つめながら。



「あの魔法使いがあなた方を攻撃した時、ナギ様が——多分ニンニクのお守りですよね。その魔法を分散させました。


 魔法は三つに分かれ——


 一つはヒナ様に。その美しい、青い翼——。


 もう一つはナギ様に。その、ワタクシと同族かのような風貌。


 そして残りが……一番近くにいたワタクシのご主人様に、かかってしまったのです」


 ゴブリン子ちゃんは、また涙を流し始めた。


 「とにかく……あの後、お二人は最終的に、魔法陣の中に身を潜めてくださったので、安心しました。


 その後は、だいたい先ほど申し上げた通りです。ワタクシのご主人様はすぐに隠れてしまったので見ていませんが、姿が変わってしまったって……翌朝、気がついた時はすでに書置きを残して失踪された後でした」



 ゴブリン子ちゃんはうなだれた。



「じゃあさっき言ってた……あなたのご主人がなんらかの術にかかった、ってのはあの魔術師の魔法ってこと?」


「そうなんです。魔法がご主人様に及ぼした変化を見ていないので、どんな術かはっきりつかめなくて……もしかすると、ご主人様は何かわかっていらっしゃったのかもしれません。それで、問題を解決しに行くと書置きされたのかも」 


「そうね……」 


 曖昧な返事をしつつ。



 一つだけ、わかったことがあった。



 あたしたちが奇跡的に追手に見つからなかったこと。


 あの魔法使いは、あの場所があいつの術を邪魔する魔の気に満ちていると言っていた。


 あれは、ゴブリン子ちゃんの魔法陣だったのだ。

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