第3話 嘘八百!

 青年は、実は聖女を昔から知っていた、と言った。


 聖女と呼ばれ始める前から。


「いつもおそばでお守りしていたのですが、今回こんなことになってしまい……」 


 青年は目を潤ませた。


「モンスターが出た時、僕は聖女様をお守りできませんでした。この身に代えても、お守りすべきだったのに……」


 あたしはというと、同情の色を目に浮かべながら、本気でこの青年について興味を持ち始めた。



 ——こいつ、大嘘をついている。涙まで見せて……。



「ああ、聖女様が苦しんでいらっしゃるかと思うと、本当にいてもたってもいられません!!」


 そう言って両手で顔を覆った。


 でも、指の隙間からあたしの反応をうかがっているのはお見通しよ。

 同情して、何か言うとでも思ってんのね。

 甘いわ。


 あたしは心底同情した、という表情を作ったままで声をかける。


「まあ、かわいそうに……。本当に、何か知ってたら、ぜひ教えてあげたいんだけど……申し訳ないわねえ」


「……いいんです、どうかお気になさらず」


 青年は洟をすするふりをしつつ、再び食べ始めた。


 どうやら、あたしについては何も疑っていないようだ。


 青年は皿の中のものをほぼ平らげ、銅貨を二枚置いて出て行った。


 あたしはその銅貨を握りしめて考えた。


 あいつは、もちろん聖女の護衛なんかじゃない。とはいえ、単なる冒険者にも思えない……


 気をつけておいたほうがいいかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る