第2話 銀貨一枚ぽっちで、何が買える?
「ところで」
青年は口を開いた。
「お姉さん、こういうところで毎日働いていらっしゃるなら、何か新しい情報はありませんか? 」
胸元のポケットに手を入れ、ちらっと銀貨をきらめかせる。
「ただで、とは言いませんよ」
「まあ、銀貨一枚なんて、随分太っ腹ねぇ」
あたしは内心の怒りを完璧に隠してにっこりと微笑んで見せた。
銀貨一枚。
たったそれっぽっちかい!
あたしに関する情報が、たった銀貨一枚!?
笑わせないでよ。
しかもそんなはした金で、あたしが何か言うと思うなんて。
本当、安く見られてるわ。
それでも一応、単なる酒場の女として、怪しまれないように会話だけはしておく。
「何が知りたいの?」
「もちろん、聖女とモンスターについてですよ。何か新しい噂とかないですか」
「新しい噂ねぇ……」
「または、あなたが見ていて、何か胡散臭い人間がいたとか、怪しいことがあったとか、何でも良いのですが」
これも、冒険者というよりは、警備隊のような質問だ。
口調も、好奇心からというよりも、職業的。ある意味事務的だ。
あたしは言った。
銀貨が隠された、青年の胸ポケットあたりを見ながら、惜しそうに。
(ああ、あたしは芝居の才能があるかもしれない!)
「ほんと、残念だわ。だってここに来る人たちって、毎日みんな同じことしか言わないのよね……」
「で、それはどんなことなんですか?」
「まず、森の奥の洞窟に、モンスターが聖女様を連れて行ったこと」
「それは僕も聞きました。で、他には?」
青年はカウンターから身を乗り出すように聞く。
「あとは、自分がモンスターを倒して有名になって、金持ちになること。そんなのばっかりよ」
青年はがっかりしたように目線を皿に落とした。
その落胆ぶりは目も当てられないほどで、ついつい尋ねてしまう。
「何か、事情がありそうね。お兄さん。話だったら聞いてあげるわよ」
もしも王宮の警備隊だの、公式な依頼を受けたモンスター狩人だったら、いくら何でもこんなところで、素性もしれない酒場の女に下手に話したりしないだろう。
ところが、その青年は意外にも、ポツリ、ポツリと話し出したのだった。
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