鼻クソ店主、大いに語る。その4(雑誌インタビューから転載)

 Q.鼻クソ料理マスターだけが知っている、家庭でも作って食べられる、とっておきの鼻クソ料理を教えてください。


 A.とんでもない! 家族に鼻クソなんて食べさせません。わたしだって鼻クソなんて食べませんよ。ただの商売道具ですから。


 ちなみに店で出す料理の味見もしていませんからね。わたしの父が鼻クソ食いだったことをお話したので勘違いさせたかもしれません。

 たしかに、わたしの父は「鼻クソは最高の調味料である」と口癖のように嘯いていましたが……。わたしはあくまでもお客さんの反応をみたうえで「どうやら塩蔵発酵させた鼻クソを調味料にした料理はうまいらしい」ことを理解しているだけです。

 わたしが鼻クソ料理の店を始めようと思ったのは、くどいようですが塩蔵発酵した最高の鼻クソが捨て値で手に入ったからにすぎません。純然たるビジネスです。

 そういうわけで、わたしがわたしの妻や子どもたちにも鼻クソ入りの料理を食べさせるなんてことは有り得ません。まあ、でも、せっかく今回インタビューをしていただいたので──鼻クソの風味が好きでたまらないとか鼻クソをつかった料理に挑戦したいという好奇心旺盛な人に向けて、とっておきの鼻クソ料理レシピをひとつだけ紹介しましょう。

 ご紹介するのは「鶏のからあげ鼻クソ仕立て」です。

 私は口にしたことはありませんが、うちの店の厨房スタッフにたいへん好評な料理です。高価な材料や特別な調理器具の必要がないので、誰でもかんたんに作れます。

 まかない料理というのは、店の料理に使っている材料の切れはし──捨てても構わないものをうまく工夫して使います。今回紹介する「鶏のからあげ鼻クソ仕立て」に必要なのは、本来捨てるはずの塩蔵鼻クソの残りカス。それだけです。

 わたしの店でつかっている鼻クソの塩漬けは瓶詰めされてます。塩漬けですから、きわめて塩分濃度の高い、しかも臭くて濁った汁がビンの底にたまります。いわば鼻クソの灰汁アクです。苦味や雑味を含んでいるのでお客さんに食べてもらう料理には使いづらい。しかし、わたしたちプロの料理人というのは玄人好みのちょっとクセのある味付けが好きですから、鼻クソの灰汁というのはちょっとしたご褒美なわけです。

 このインタビューが掲載される雑誌の名前は──悪食倶楽部? なるほど。それならば、読者のなかには「自家製の塩蔵鼻クソ」をこしらえてらっしゃる方もいるのでしょうね。ビンの底に溜まったエキスは──どうか捨てないでください。鶏もも肉でも鶏むね肉でも結構です。小麦粉や片栗粉などの衣をつけるまえ──下味をつける工程において「塩蔵鼻クソの灰汁エキス」を日本酒ですこし割ったものを揉みこんでから三十分ほど寝かせてください。たったこれだけで粗末な材料──たとえばグラム18円の冷凍鶏むね肉が驚くほどジューシーかつ風味豊かに仕上がります。お試しください。

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