鼻クソ店主、大いに語る。その3(雑誌インタビューから転載)

 Q.鼻糞って、人によって味が違うんですか?


 A.人生いろいろ。鼻糞もいろいろ。

 女の鼻糞と男の鼻糞。もちろん味わいは違いますよ。

 女の鼻糞、あなた見たことがありますか? 鼻毛の先にくっついているのをたまに見かけことはあるかもしれませんが、男よりも量が少ないので相対的にいえば貴重なものです。

 わたしが一括で買い取った「いまは壊滅したカルト宗教が密造していたもの」をみても、男ものと女ものがわけて塩蔵されていました。割合は男7対女3ってところでしょうか。もしかすると鼻糞カルト教団のにおける信者の男女構成比そのままかもしれませんが。

 さらに成人の鼻糞。子どもの鼻糞。赤子の鼻糞にさえも個性というか特徴があるんですよねえ。なぜか還暦を越えた年寄りの鼻糞は残されていませんでした。いわば皺くちゃの出し殻ですから風味も抜けているでしょうし栄養面でも価値がないのでしょう。ラーメンのスープ作りでは老鶏を丸ごと使うこともあるんですがねえ。キチガイ宗教の教祖様が考えていた理屈なんて知ったこっちゃありませんが。

 え? 味のちがいですか。ぜんぜん違いますよ。赤子のはさっぱりしていますね。鼻の穴が小さいので量も少なくて。風味にはこれといった特徴がないです。母乳ばかり飲んでいるだけあって乳臭さがあるのでココナッツやチーズをつかったデザートに混ぜたりします。

 ちなみに鼻糞っていうのは年齢をかさねるごとにコクが醸成されますね。十代から二十代は塩味がキツイですが滋養強壮成分が含まれています。三十代くらいが旨味のピークで、四十代の鼻糞は栄養面と口当たりのバランスがいちばん良いですね。。五十代は枯れたようなカビ臭さを帯びるんですが、調味料としては複雑玄妙なテイストを表現したいときに役立ちます。

 女性の鼻糞のなかには花の香りを漂わせるものがあります。年齢は関係なくて、まったく個人の資質と申しましょうか。美人かどうかもわかるはずがないです。

 ある花糞を口に含んだ瞬間にフローラルな香りが鼻腔をぬけていったときは驚きました。わたしは「花糞」と呼称していますが。まるで桜の塩漬けを口に含んだときのようで、なんというか中学校の入学式やら当時好きだった同級生の女学生を思い出して茫然となったり。

 考えてもみれば、鼻腔は脳の近くにもつながっているわけですから、鼻糞が醸成される過程で、なにかの情報がこぼれて、鼻水やら剥がれた粘膜やらホコリやらと共にぎゅっと凝り固まるのでは──なんてことを想像したこともあるくらいです。

 じつは鼻糞ってすごく奥深いものなんですよ。さんざん鼻糞を食ったり使ったりしてきたんですが、まだまだ鼻糞の全てをつかみきれないでいます。

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