第27話 デュアル・デュエル!

 魔物は、様々は体系が存在する。

 例えば、獣系や鳥類系、植物系など。数え挙げ始めたらキリがないくらいだ。時にそれらは魔獣や魔蟲のように、省略して呼ばれるものもある。

 そしてもちろん、体系が違えば特徴も異なってくる。


(中略)


 『クロウガ』は黒色をした鳥類系の魔物だ。生息地域は様々だが、基本的には山岳地帯に生息していることが多い。また、体長はせいぜい50cm程とそこそ大きく、素人ではまず勝つことができない相手だ。

 クロウガは他の魔物と比べて高い知能を有していて、学習能力の観点で見ればトップクラスだろう。鋭い鉤爪で獲物を掴んで空高く舞い、落下死させてから食べるというような行動を見せたこともある。


(中略)


 『ウルガル』は白狼とよく似た獣系の魔物だ。生息地域は森林地帯とされており、団体行動をしているとの報告がある。体長は1.5m程で狼とそう変わらない。

 しかしウルガルには鋭い牙に加え、目で追えないほどの俊敏さを兼ね備えている。もし相対した時は逃げようとはせず、そのままじっとして祈るのが最適だろう。ウルガルはこちらから攻撃を仕掛けない限り、ほぼ襲いかかってくることはないからだ。


(中略)


 以上の一例は、あくまで平常時の場合の話だ。魔物は時に、が存在する。もし亜種に遭遇してしまった場合は、その場その場で対処をする必要があるだろう。


———以上、『イチから学ぶ魔物図鑑』から抜粋。



   ▼



「いいな2人とも、クロウガの相手に集中しろ! ウルガルは私に任せておけ!」


 隊長はそう言い残して、ウルガルの群れへと1人で突っ込んでいった。当然、あのウルガル共も普通ではないのだろう。そもそもウルガルに囲まれること自体がマズイことだ、気づかぬうちに喉元が千切られる事になる。

 だが、あの隊長だ。きっと問題はない。隊長はいかなる場面でも、たった1人であったとしても必ず勝利を収めてきたのだ。


 それに今は隊長のことを気にしている程、私たちにも余裕はない。


『GYAAAA!』

「ど、どーするんスかぁコレ……!?」

「どうするも何も、戦うしかないだろう。気合入れろよ、ガネッシュ!」


 私たちの目の前にいるのは、鳥類系の魔物である『クロウガ』だ。誰が見ても、それは間違い無いだろう。

 しかし、あまりにも大きすぎる。優に2mは超えているだろう体長は、明らかに一般的なソレと比べて大きく上回っている。しかも魔獣の専売特許であるはずの威嚇スレットを使うという事は、鳥獣系とも呼べる個体だ。


 いや、これくらいは当然なのか? ここは『白の大地スカル・メイズ』だ、この一帯全てが迷宮ダンジョン。この程度のイレギュラーが発生しても、ここじゃ日常茶飯事なのかもしれない。


「で、もう一回聞くッスけど! どーやって戦うんスか!?」

「翼だ」

「翼……ッスか? 胴体じゃなくて!」


 鳥類系の魔物を相手にするときの基本は2パターン存在する。翼を奪い飛行できなくする方法と、胴体を直接狙う方法だ。通常はどちらを取っても問題ないのだが……ここは『白の大地スカル・メイズ』。

 今までの常識はまるで通じない。


「鳥類系の魔物は、胴体部分に魔力が集中している。だから———」

「何があるか分からないって事ッスか? でも、翼部分だって何があるか分からないじゃないッスか!」


 魔物の体を構成するほとんどは魔力だ。そして鳥類系の魔物は、飛び上がった時の風圧や急激な温度変化にも耐えられるように、普通の鳥の筋肉が胴体部にあるのと同様、胴体部分に魔力が集中していると言われている。

 そしてこの一帯に生まれ落ちてくる魔物が通常のそれとは異なるというのであれば、魔力が集中している胴体を狙うのは得策ではないと私は判断した。


 だが……ガネッシュの言う通り。通常のそれとは違うからこそ、このクロウガは翼に魔力が集中している可能性がある。

 胴体か、翼か……どちらに攻撃を仕掛けるか、それでこの戦闘の展開は大きく左右される。

 もはや、これは賭けに近い。


「ガネッシュ、準備だけはしておけ。まずは私から仕掛ける」

「仕掛けるって———」


 ガネッシュが何かを言いかけたその瞬間、クロウガは大きな黒翼をはためかせ飛び上がる。悠長ゆうちょうに会議をする時間はくれないようだ。

 しかも、その巨大すぎる体躯からは想像もつかないほどに素早い。驚くべきことに通常サイズのクロウガを上回るほどの俊敏さだ。恐ろしいスピードでクロウガはぐんぐんと上昇していく。


(なら……こちらも、素早く!)


 私が構えを取ると同時に、クロウガの上昇がふわりと止まる。そして次の瞬間には、鋭く尖ったくちばしをこちらに向けて重力に従い急降下。まるで隕石のように、こちらへ真っ直ぐ向かってくる!

 だが、私の魔法はリロードがない。私の魔法が発現するのとクロウガの降下はほぼ同時だった。

 属性は、雷!


「【雷重槍ボルトランズ】!」


 拳から、複数の雷がクロウガへ線となって襲う。

 狙うは、翼だ。どんな形であれ翼を奪ってしまえば戦い方は広がり、こちらの勝率はぐんと上がる。

 あとは当てればいいだけ……しかし、そこまで迷宮ダンジョンは甘くはなかった。


 雷重槍が当たる直前、クロウガは翼を操作しぐるりと時計回りに回転ロールする。そして複数あったはずの雷魔法は、クロウガの体には掠りもせずに通過してしまった。


(見切られたか…)


 いくら魔法で生み出した雷とはいえ、その速度はとても素早く、見切れる者はそうそういない。しかしこのクロウガは全ての雷魔法の起動を見切り、見事に回避した。

 なるほど、やはりこのクロウガは相当強力な魔物のようだ。視界に入った攻撃ならばどんなに素早くとも、見切られ回避されると考えた方がいいだろう。


 なら、

 外れたと思われた雷はクロウガの後方、上空部分で集結し……そして。


……【雷釘ボルトネイル】!)


 1つの巨大な雷が真っ直ぐにクロウガに落とされる。

 魔法による雷なら落雷時の音は一切しない上、先ほどのように雷魔法を上昇させるより下降させた方がよりスピードが出る。これなら、当たるはずだ!


 そして直後に……電流が体を駆け抜ける音。


 私の思惑通り、クロウガに雷撃が直撃した。クロウガの体に強力な電撃が走り、多少なりとも落下の軌道が変わるはずだ。

 しかし私は……この時にようやく迷宮ダンジョンが生み出すの恐ろしさを知った。


(………効いて、いないっ!?)


 電撃は間違いなくクロウガに直撃した。だというのに、クロウガは怯む事なく、鋭い眼光をこちらに向けて急降下を止める気配もない。

 まずい、防御しなくては! 私はほぼ反射的に氷魔法で壁を作り始めていた。


 その瞬間だ。クロウガは、翼をたたみ速度をさらに上げた。私が氷壁を張るのを確認した直後だ、まるでこちらの行動の意図を把握しているかのようなタイムング。

 まさか、このクロウガには既にそれほどの知能があるとでも言うつもりか? ありえない話ではないが、いくらなんでも……!


(まずい、防御に必要なだけの氷を発現させる時間が———)

「危ないッス!」


 そして、着弾。クロウガは私の氷壁など飴細工を壊すように、いとも簡単に突き破り、大きな衝撃音とともに地面に墜突した。


「いってて……大丈夫ッスか、キュリアさん」

「ぐ……あ、ああ。一応はな、助かった」

「最初の攻撃が外れた地点で、マズイとは思ってたッスけど——」


 ガネッシュが私を突き飛ばしてくれたおかげで、なんとか無事には済んだか……タックルされた時、魔杖ロッドを手放してしまったが。

 体勢を整えつつ、クロウガの様子を伺う。あれだけの速度で地面に墜落したのだ、それなりのダメージはあっていい。

 だが、その願いは叶うことはなかった。


 地面に突き刺さっていてもいいはずのクロウガはすでに嘴を地面から引き抜き、今まさに上空へと飛び上がる寸前だった。嘴や胴体に、それらしいダメージの跡は一切ない。

 今もまだ砂埃が舞っている地面には、まるで隕石が降ってきたのかと錯覚するほどの巨大な穴がぽっかりと空いていた。まさに一撃必殺……あれに当たればひとたまりもないだろう。


 そしてまた、クロウガは上空へと再び舞い上がる。また同じ攻撃をするというのだろうか、しかしどう対処していいのか———


「キュリアさん、次は炎の魔法を広範囲にお願いするッス」

「いや、あのクロウガは魔力に耐性がある可能性が高い。だから———」

「いいから頼むッス! 失敗したら俺がキュリアさんをもっかい庇うッスから!」


 ガネッシュはいつになく真剣な顔で迫ってくる。

 何か、妙案を思いついたに違いない。発想の転換は、硬派な私よりも自由な子どもらしい思考を持つガネッシュの方が何枚も上手だ。事実、戦略型ストラテジーゲームを勧められた時も、私がガネッシュに勝てたことはあまりない。

 ならば……


「分かった!」

「これを使ってくださいッス!」


 ガネッシュが先ほど倒れた時に手放してしまった、私の魔杖ロッドを投げ渡す。先ほどは使わなかったが、今こそ使う時だろう。

 クロウガが、再び隕石へと変わる。通常あれほど上空では、火魔法は届かない。だが、私ならできるはずだ。


(いや、やるしかない!)


 手にしている魔杖ロッドめ込まれた赤色の魔石コアが輝きを放つ。魔力が送り込まれてくるのを感じる。

 今なら、届く!


「【強火吠パワード:ブレスフレア】ッ!」


 私の口から、炎の竜巻が放たれる。ここまで巨大な火魔法を発現させたのは、私自身初めてだ。そして、強火吠はあっという間にクロウガを包み込む。できれば、これで倒したいところだ。


 しかし当然のように裏切られ、クロウガは無傷で炎の竜巻を攻略し、こちらに猛スピードで迫ってくる。しかも、すでに翼を畳んでいるようだ。このままではやられてしまう!


(ダメだ、やはり軌道は変わらない!)


 私がとっさに魔法を使わずに回避行動をとろうした、その時だった。


『GYAAッ!?』


 クロウガの体が、。今まで余裕そうにしていたクロウガの態度や表情は一変し、突撃を解除して空中でのたうち回っている。

 これは……まさか、精霊術の属性付与エンチャント効果!


「ガネッシュ!」

「やっぱ効いてくれたみたいッスね…よかった」


 そうか……ようやく私はガネッシュの作戦に気づく。

 炎霊サラマンダーによる属性付与エンチャントをするには、属性を与える物が必要だ。そしてこのクロウガは魔法に耐性がある……その代わり、魔法以外の攻撃は効果があると踏んだのだろう。

 そして精霊術は魔法と違い、魔力でなく物質に属性が与えられる。つまり精霊術だと効果があるかもしれない………だからガネッシュはそれに賭け、


(そうか……私に魔杖ロッドを渡した時か…)


 私は魔杖ロッドから魔力を補充し、火魔法を発現させた。その時すでに、魔杖ロッドの魔力に属性付与エンチャントされていたということだろう。

 しかしまさか、魔力に属性付与エンチャントするとはな。ガネッシュらしい、ぶっ飛んだ発想だ。


「アイツは魔法を無視して突っ込んでくるから、逆手に取れるかと思ったんスけど、上手くいったッスね。ああよかったよかった」


 やはり、ガネッシュと発想比べをして私は勝てそうにないな。私はどうも、真っ直ぐすぎるようだ。


 尚も炎に包まれているクロウガは、もうピクリとも動かなくなっていた。



   ▼



「くそっ、キリがないな…」


 ウルガルは、狼とかなり似たタイプの魔獣だ。

 群れで行動することもそうだし、狩りのスタイルも酷似している。少なくとも魔の森マナ・フォレストに現れるウルガルと狼に大した違いはなく、あるとすれば体の構造くらいのものだろう。


 しかし、いま私を取り囲んでいるウルガルは明確に違う。

 先ほどから私は、襲いかかってくるウルガルを1匹ずつ確実に致命傷になる斬撃をお見舞いしているというのに、まだ1匹も倒せていない。

 そして、さっきから私が感じている違和感……このウルガルは、あまりに遅すぎる。まるで、何かの代償として俊敏を失ったかのような———


『GWOOO!!』

「ふっ!」


 またしてもウルガルが背後から飛びかかってくる。魔力のセンサーを張り巡らしているので、奇襲されることはないが油断はできない。私は振り向きざまに剣を横一文字に振り、ウルガルの腹部を切り裂き弾き飛ばした。

 今まで出会ったウルガル相手なら、これで倒せる。しかし、そのウルガルはそのまま着地。またしても唸りながら、今にも飛びかからんと私を見つめていた。そのウルガルの腹部の出血は、すでに止まっていた。


(なんだ、この回復速度は……)


 傷の修復速度があまりにも早すぎる。斬っても斬ってもキリがないとは、これのことだ。まさか不死属性アンデッド……? いや、それなら傷は開いたままだ。


(あくまで、特殊能力ということか……)


 不死属性アンデッドではないものの、それに近い回復速度を持ち、群れで行動するウルガルの包囲網。その数、9匹。

 この状況は、控えめに言ったとしてもマズい。もし一斉に襲い来られでもすれば、その全てを捌き斬るのは流石の私でも難しい。今1匹ずつ襲っているのは、私がどう出るか様子を見ているといったところだろうか。


 こちらから仕掛けるのは大変危険だ。こっちは私1人に対し、向こうは群れ。せめて、向こうの二人が増援に来てくれればやりようはあるが……そんなことを言っていても仕方がない。二人だって、今は戦闘中なのだ。

 そして、キュリアの言っていたあの事もある。


———まだ増援が来ている可能性があるということです!


 あまり時間はかけてはいられない。となると、やはり私1人でこの状況を切り抜ける他ないだろう。


(せめて私に魔法が扱えればな……それこそ、言っていても仕方ないか)


 さて……どうするか。

 再びウルガルが襲ってくる。今度は右後ろからだ、先ほどと同じように斬り裂くが状況は何も変わってくれない。


(傷は修復されてしまう……なら、即死させるしかない)


 ウルガルは群れで行動し、非常に同族愛の深い魔獣だ。1匹でも彼らの前で殺してしまえば、怒り狂い何をしてくるか分からない。

 だから気絶にとどめたかったのだが、もうそうは言っていられないようだ。仕方がない。少々危険を犯すことになるが、これに賭けるしかないようだ。


『GWOOOOOO———!?』

「せいっ!」


 後ろから1匹のウルガルが飛びかかってくる。そして私は、そのウルガルをした。飛びかかってきたウルガルの体は、真っ二つになったまま私の真横を挟み込むように通過し……落ちた。


 静寂。

 全てのウルガルが、2つになった同族を凝視していた。

 そして———嵐。


『『『『『『『『GWWWWOOOOOOOOO!!!!!!』』』』』』』』

「———っ」


 まるで威嚇スレッドのようなビリビリとした怒りの咆哮の嵐が沸き起こる。私は、ウルガルを相手にするときの定石を、『群れを相手にウルガルを殺す』という禁忌を犯した。

 ここから先は、的確に急所を両断する暇さえも与えてくれないはずだ。私はすかさずセンサーとして放出している魔力の量を跳ね上げ、構える。


 そして、次の瞬間に私を襲ったのは……乱舞だった。

 右から、左から、正面から、背後から、時には上空から、無造作に、無計画に、無尽蔵に、ウルガルの牙が襲ってくる。


「うおおおおっっっ!」


 私もほぼ無意識に叫んでいた事も、気付くまでにそう時間はかからなかった。剣でウルガルの牙の矛先を逸らすのがやっとだ。両断を狙う隙どころか、攻撃を与える暇すら与えてはくれない。

 しかし、彼らの怒りはこれで止まることはなかった。


「!」


 魔力センサーが、ウルガルとは違う形の何かが飛んでくるのを感知する。

 一体なんだこれは? ともかく、正体不明のものに斬りかかるのはかえって危険だ。私は咄嗟とっさに頭を下げ、回避する。そして私が正体を確認しようと顔を上げると……信じられないものが視界に飛び込んできた。


 轟々と燃える火球。

 私の頭より一回りほど大きい火の玉だった。


……!?)


 追撃せんと襲い掛かるウルガルを捌きつつ、背後を確認する。そこには、大きく口を開けているウルガルの姿があった。


 魔物は体の構造が魔力ではあるが、魔法を使うことはない。なぜなら、魔法を使うには『魔力に属性を与える』という知性がなければいけないからだ。当然、魔物にはそこまでの知能はない。


 しかしどうだ、そんな私の常識はいとも容易く崩壊した。 魔物が魔法を使うことによる脅威は、計り知れない。


(これはマズい……!)


 どうする、どうする!?

 一旦離脱するか? 不可能ではない。魔力の床を生成しての二段ジャンプができる私には、ほんの一時的ではあるが離脱ができる。


(いや………このまま耐えきるっ! 耐えきってみせる!)


 私は、全てを出し切るつもりで出せるだけの魔力を一気に放出する。

 私が先に魔力枯渇ショックを引き起こすか、ウルガルたちが先に全滅するかの耐久戦。もはや賭けに近い戦法だ、実行するリスクがあまりにも高い。

 だが、これをするしかない。もはやこれしかない!


 縦横無尽に襲いかかってくる牙と火球。剣で捌くのにも限界が近づいてくる。

 私の防具には牙による傷が増えていき、火球が髪を掠めていく。稀に火球がウルガルにあたるが、驚異の回復により関係はなさそうだった。


(マズい………意識、が……)


 剣を振る速度も遅くなる。それを見逃すウルガルではない。

 群れの半分が四方から飛びかかり、もう半分が火球を繰り出さんと大きく口を開ける。ここにきて、狙いすましたかのような、まさかの


(くそっ…)


 そして次の瞬間に………その時は来た。


 飛び上がったウルガルが途端に脱力し、どさりと地面に落ちる。魔法攻撃の準備をしていたウルガルも同様だった。

 どうやら、ギリギリ間に合ってくれたようだ。私はホッとして地に膝を落とす。


(最近、こんな戦法ばかりだな……)


 ぼんやりとしてきた意識を戻すように、深呼吸を繰り返す。

 その時、魔力によるセンサーを解除していた。だから気付くのに遅れてしまったのだ。


『G……』

「なっ———」


 倒れる前に火球を放っていたウルガルが、倒れたままではあるが口を開き攻撃をしようとしていることに。

 しまった。今この状況で魔法を放たれたら回避ができない。


(無理矢理にでも体を———)


   ドシィィン!!!


 唐突だった。

 上空から降ってきた謎の物体によりそのウルガルは押しつぶされ、結局魔法が放たれることはなかった。


か……かしけぇなぁお前」


 降ってきたのは、物体ではなかった。正しくは、人だ。


「ちょっとやそっとの戦歴で思いつく戦法じゃねえな……戦闘には慣れっこってワケかい?」


 その人物の服装は、私たちエルフからすれば奇抜なものだった。

 赤色が基調になっているパーカーを羽織るように着ており、半ズボンよりも短い短ズボンを穿いている。そして腰にかけられた、異常に大きすぎるハンマー。

 そして額から飛び出た1本の巨大なツノに、胸を隠すにはなんとも心細いさらし以外に肌を覆うものは何もない。


「だが、この『ネオウルガル』を相手にする時は、しっかりきっちり殺しとくもんだ。それも知らねぇとは、さては初心者ビギナーだな?」


 目の前にいる人物は———おそらく冒険者ハンターであろうその人物は———女性の鬼人オーガだった。

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