トナカイ&ダチョウ飼いの北川さん

高秀恵子

トナカイ&ダチョウ飼いの北川さん

 流氷の街・網走市に暮らす北川さん一家は、日本で唯一、トナカイとダチョウの両方を、商業目的で多頭飼育しています。


 北川さんはあるとき、偶然、寒いモンゴルでダチョウ放牧を行なっている人のことを知りました。それまでは北川さん一家は日本で平均的な乳牛の飼育農家でしたが、北川さんは思い切って以前からやりたかったトナカイの商業飼育と合わせた牧場に転換しました。今から10年前のことです。


 トナカイは元々、北方の野生動物でした。しかし他の鹿の仲間と違い、人間に馴れやすく、古くから北方の少数民族に家畜として飼育されていました。

ダチョウのほうですが、これは砂漠の過酷な気候に適応した鳥類です。

北海道でもいくつか、観光目的や商業目的で飼育されてます。

しかしその両方を、しかも純粋な商業目的で飼育しているのは、北川さん一家ただ一つです。


 ダチョウは、3月から9月まで卵を産みます。つまり一日のうちで日が長い時期に産卵します。ダチョウは夕方に、大きな卵を産みます。

 ダチョウの卵の利用にはいろいろな用途があり、広く知られているのが、ダチョウ卵の抗体を医療用マスクに塗布することですが、北川さんの牧場では、純粋に食用目的で飼育されています。ダチョウの大きな卵は、出荷された後、そのまま製菓用の卵液に加工されます。

 北川さん夫妻は、ダチョウの卵が、日本人の味覚に合うよう飼料に工夫を重ねました。雑食性のダチョウは、乾草や雑草の他、養豚用の飼料に使う、パンや麺類やお菓子の製造過程で出る産業廃棄物で作った、液体飼料を与えています。その他、卵の色が美しくなるよう、天然色素のクチナシや地元でとれるキハダという樹木の色素も与えています。また、漁業が盛んな網走市で入手できる貝殻などもダチョウを健康にし、卵をおいしくするため利用されています。

 もう一つの商品の目玉は、クリスマスや正月用の、ダチョウのひなの肉です。

ダチョウのひなはとても大きく、シチメンチョウになじみのない日本では、パーティ用の大きなローストとして珍重されています。

 ダチョウは冬の間は室内運動場で放牧されますが気温は2℃ほどの寒冷な場所です。ダチョウは厳しい環境に置いたほうが、肉も革も羽根も品質のよいものとなります。


 一方のトナカイですが、肉・脂肪・毛皮・革などの他、角も漢方薬の材料としての用途があります。北川さんの牧場ではさらに、脂肪の多いトナカイのミルクからバターとヨーグルトチーズを作っています。

本来のトナカイは乳の分泌量が少なく、仔トナカイを育てるのに精いっぱいの量しか分泌しません。北川さんは酪農の知識を工夫して、トナカイ一頭あたり3Lの乳が

平均して搾乳できるようにしました。

 トナカイの飼料は、乳牛を飼っていたときに利用していた燕麦やクローバー、飼料のかぶやかぼちゃ、そして自家製栽培のトナカイの大好物、ミズゴケです。またトナカイは、角のために動物性のえさも必要です。こちらも北川さんの牧場では、地元網走の魚を使っています。

「この地の水はおいしいです、おいしい水は健康でいいミルクを作るのに大切です」と北川さんは語ります。


 北川さんがトナカイ飼育を始めたのは理由があります。

 北川さんは、サハリン島の先住民であるウィルタ民族の血をひいています。

ウィルタ民族はトナカイを飼育していました。

 サハリン島のうち、北緯50度以南が日本の領土となった頃、北川さんの祖父一家は日本領で暮らしていました。

 その後、さまざまな事情があり、祖父一家は日本の網走市で生活するようになりました。

 北川さんの妻は日本民族ですが、ウィルタ民族に伝わる刺繍が得意です。

自然に生えているイラクサから繊維をとって糸にし、地元の素材で草木染をしています。赤い糸はハマナスの根から、黄色い色はキハダの木から、そして青い色は、エゾ大青という草の葉を発酵させて作った藍玉で染めます。

 以前は木綿布に刺繍をしていた北川さんの妻ですが、今ではダチョウやトナカイの革を使っています。革加工したときに、細かい革が産業廃棄物として出てきます。

 その革を使って、コースターを作ります。

 ウィルタ民族に伝わる刺繍には独特の特徴があります。

 なめして光沢のある側を裏側にし、薄茶色の裏生地に刺繍をします。このとき

糸は光沢のある裏側には決して出ないように刺繍します。

「慣れるまでは大変でした」と北川さんの妻は語ります。

 大学を卒業した、北川さんの息子さんと娘さんも、両親の気持ちを受け継いで、一緒に仕事をします。


 春から秋には、北のトナカイと南のダチョウが同じ牧場に放牧されている姿がみられます。観光牧場ではないので積極的な見学者は受け入れていませんが、フェンス越しに見えるトナカイ達とダチョウ達の姿は、世界の平和を願う北川さんの理想の世界かもしれません。

 

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トナカイ&ダチョウ飼いの北川さん 高秀恵子 @sansango9

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