消える記憶

遠くのことになって、いつかあなたのいびきや、嬉しそうに褒めてくれた声も、最後に交わした握手の温もりも、共に過ごした時間も、教えてくれた言葉たちも、顔や香りでさえ、忘れてしまう日が来るのだろう。

忘れたくないと思うてても、消えてしまうのよ、記憶なんて。

たとえ、みんな、あなたのことを忘れてしまっても(そんなことは、きっと、ないのだろうけど)私だけが覚えているから。

風が吹くたびに、冬が来るたびに、この日が来るたびに、あなたを想うの。忘れないように。記憶を反復。無駄だと知りながら。

冬の雪、注ぐ日の光、夜道を照らす月明かり、頰をかすめる秋の風、夏に降る淡い雨、春に咲く花々、私の奥底に、あなたは確かにいる。いつものように、ソファでいびきをかいて、疲れた体を休めているの。

忘れられない言葉がある、忘れたくない言葉がある、それでも、忘れてしまう言葉もある。

今日も今日とて、奥歯を噛み締めて、歌を歌おう、あなたが燃えた日のように、また会う日まで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る