まぼろし

忘れてた、記憶。叩きつける、雪。体を凍らせる。肺が、潰れる。体の左がわ、燃える。燃ゆる、体。痛む。ズキズキズキズキ。骨は軋む。血は止まらない。とめどとなく、流れる血潮。

僕の、右目。遠くまで良く見える、自慢の右目は。燃え踊るあの人を、映し出していた。


なぜ、今こんなことを思い出した。ああ、そうか。雪が、こうさせたのか。


青い空に泳ぐ、鮮やかな白雲が、とろとろと僕の心に流れ込む。


柔らかな毛布にくるまり、部屋の外まで広がる静寂に耳を傾けた。左耳にはまだ、銃声と爆音が響いている。左耳にだけ聞こえる、この騒音幻聴が消えるのは、一体いつだろう。

聞き慣れた破裂音ばんばんっ、どーんっが、僕を深い眠りへと導く。


この雪山の純白さが、この国がどれだけ平和であるかを表している。

ゆき。ゆき。ゆきだ。まっしろな、ゆき。


あいしてるよ、ゆき。

君があの人敗者を隠してくれた。


だから、忘れさせてよ、ゆき。

君のことはもう、汚さないから。

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