2.青空
日差しは爛々と輝き、湿度も高く、安全第一長袖長ズボンのバイカーファッションの下で汗は滝のように流れ、ヘルメットは異様に蒸れる。
気象庁に『災害』とまで言わしめた猛暑の下のツーリングは、なかなかに過酷で、それでもバイクで走れば服の隙間に入る風が気持ちいい。
「まずは海に向かって突っ走る感じ?」
「いや、途中にあるお馬の公園に寄ります」
「あー懐かしいね」
信号待ちをしながらペットボトル水を一口。すでにぬるい。背後の彼女に渡すと、空いた手に包装を剥いた塩飴を握らされる。
「もうかれこれ7年ぶりくらい? 変わってないかな」
「どーかな」
信号が青に変わる。塩飴を口に放り込み、バイクを発進させる。適当な木陰に停めて涼んだり、見つけたコンビニで飲み物追加したり、休憩を挟みつつバイクで2時間。懐かしの公園の馬のマークが見えてきた。
パーキングを見つけてバイクを停める。トップボックスからリュックを出せば、熱をもって嫌に熱い。入れ替わりにトップボックスには長袖のシャツを突っ込んで、半袖Tシャツ1枚になる。
「うわ、それ絞れそう」
同じく羽織っていたカーディガンを脱いだユイが僕のシャツを指差して笑う。やって見せたら本当に絞れた。
お馬の公園とは、子供の時によく親に連れられて行った市民公園の事だ。ちゃんとした正式名称があるのだろうが、やたら馬を推す看板や遊具のせいで、昔からこれで通ってしまっている。
「やー、全然変わってないね」
遊歩道を歩きながら、きょろきょろと辺りを見回す。
あれがユイが空を飛ぶのに利用したブランコ。あれが一国一城を築いた砂場。ヒーローごっこのヒロインだったはずのユイが全ての敵をなぎ倒して頂点にたったジャングルジムに、ユイが立ったまま挑戦して案の定転んだローラー滑り台。
思い出のユイが強烈を極めていてつい吹き出しそうになっていると、同じタイミングでユイがふふっと笑みを溢した。
「見て見て、あれハジメが登ったまま降りれなくなったネットタワー。あんなにちっちゃかったんだねぇ」
「恥ずかしいこと思い出させんなよ、ローリング滑り台の波を制せなかった魔法少女プリティウサミン」
「それ言っちゃう? それ思い出させちゃう? この、運ていの試練に屈した最強レンジャー・ウルトラレッド!」
「封じられし暗黒の記憶を貴様……!!」
そこまで言って、お互いに盛大に吹き出した。
笑いながら、あの頃はきっと純粋だったんだよねぇ、なんて綺麗な言葉で黒歴史を称えつつ、遊具場のさらにその先に進む。木漏れ日の落ちる遊歩道の先の先。陽を遮る木々が消え、そこに広がる向日葵畑。僕たち二人のお気に入りの場所だ。
「初めて来たときは向日葵があんまり大きいからビックリしてさぁ」
良く覚えている。隣で大きな口を開けて目を真ん丸に見開いて驚いていたユイの顔。両親いわく、僕も全く同じ顔で驚いていたらしいが。
「でもこういうのって誇張して記憶してたりするじゃん? 大人になって来たら意外とちんまりしてるのかなーって思ってたんだけど……」
眩しい日差しに目を細目ながら、ユイが手近な向日葵に歩み寄る。
「全然そんなことないわ向日葵。私よりタッパあるわここの向日葵。全然今でもかくれんぼできるわ」
彼女の言うとおり、向日葵はユイの頭の上で花を咲かせていた。
「あ、じゃあまたやる? かくれんぼ」
「お、やっちゃう?」
僕たちは顔を見合わせて、にんまり笑う。多分今僕らは全く同じ顔をしている。
「「じゃんけん!」」
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