終身

笹乃秋亜

 




 午前零時。

 眼の前に有るは一粒の“致死薬”。


 ―――辛いか?


 辛い。どう足掻いても、僕には生きにくい世界だった。

 しかし、此れを喉奥に流し込んだ瞬間に全ては終わる。廃れた世界から漸く魂は解き放たれ、僕は永遠の眠りに着く事が出来る。楽になれる。


 ―――どの様に?


 其れは詳しく聞いていない。ただ一刻も早く、早く死んでしまいたい。

 苦しいだろうか。痛いだろうか。まあ、苦痛は覚悟している。問題は死ぬまでの時間だ。長いだろうか。どうしようも無い激痛と早く死んでしまいたい焦燥の最高到達点で、やっと僕は死ぬのだろうか。其れは困る。出来れば一瞬で、速やかに僕を殺して欲しい。


 ―――怖いか?


 分からない。だが、死にたいから僕は死ぬ。

 例えどんなに苦しくても、死んでしまえばもう二度と苦しむ事は無いのだから。生きる事の苦しみに比べたら、きっと短いものだ。


 ―――死にたいか?


 死にたい。


 ―――死にたい。


 死にたい。


 ―――時間だ。


 薬を飲もう。


 永遠に左様なら。


 ―――――――――午前一時。終身。


 …











 ―――気付いていたのか。

 

 此れは致死薬じゃない。ただのビタミン剤だ。

 生憎、僕を殺すのは”オマエ”じゃない。

 ”オマエ”では僕を殺せない。

 ”オマエ”に僕を殺させない。


 左様なら。

 二度と来るなよ。



 午前一時。就寝。










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