第2話
僕が先輩に出会ったのは、ある日の放課後――それも部活動の終わった生徒たちが校門へと急ぐような時間だった。夕方というより夜に近いころ。
僕は部活後、忘れ物をして教室へ取りに戻っている友人を校門前で待っていた。
そこには僕以外にもうひとりいた。それが先輩だった。
「キミも誰かを待ってるの?」
「…………」
透き通るような声だった。続いて顔を見た。
衝撃を受けた。
ひとめ惚れだった。
これまでの人生で人並みに美人は見てきたし、かわいいなぁと秘かに思う人だっていた。でも、ここまで感情が揺さぶられることはなかった。
先輩の顔をまじまじと見てしまう。ああ、やっぱり「いい」。最高だ。
僕はこの人のことが好きなんだと瞬間で自覚した。
僕は先輩のことが好きだし、できることなら先輩も僕のことを好きだと思ってほしい。そう思った。
首をかしげて不思議そうな表情をする先輩。
僕が黙ったまま何も答えなかったからだろう。
「ええと、はい。そうですね」
なんとか言葉をひねり出した結果がこれだった。
「ふーん。じゃあ、私と同じなんだ。私もある人を待っててね……ま、いつになったら現れるかわからないんだけど」
「いつ来るか分からないのに待ってるんですか?」
「うん。ここっていう場所は分かってるんだ。あとはいつ来るかだけ。ずっと待ってるんだけどね……」
「なんだか忠犬ハチ公みたいですね」
「ちゅ、忠犬……」
先輩が困ったような驚いているような微妙な顔をしていた。かわいい。
この場を紛らわそうとしたのか、先輩は僕のことを一瞥する。
「キミって、下級生だよね? 一年生?二年生? ちなみに私は三年生だけど」
二年生?のところで僕は頷く。
先輩は年下でもOKなのだろうか、とかくだらないことを考えてしまう。
「ってことは、キミは私の後輩になるんだね。そう――。“彼女”には気を付けてね。あんまりアドバイスにならないかもしれないけど」
「??? 彼女って誰のことです?」
「私のライバル。で、ここで私が待っている相手」
先輩の言っていることは難しい。あるいは最初から理解させる気のない独り言のようなものなのかもしれない。僕もよくするから分かる。
「ん。もう時間じゃん。今日はもうダメっぽいな~」
時計を見て先輩がため息をついた。
何がダメなんだろう。
「じゃあね。後輩くん。ちょっとだけど、話せて楽しかったよ」
そう言うと、突如先輩の体が炎に包まれた。
燃えている。先輩が、燃えている。なぜ?
灰になりながら、先輩は僕に手を振っていた。真っ黒に焼け爛れた手で。
好きな人を失う悲しみなんて湧いてくるわけがなく、あるのは混乱と困惑だけだった。
僕は完全に気が動転していたのだろう。
先輩に思わずこう言っていた。
「ぼ、僕も、先輩と話せて楽しかったです!!」
先輩は炎の中でニカッと笑いながら灰になった。やがて灰になった先輩は風で上空へと飛散し見えなくなり、燃えるものがなくなった炎もあっという間に消えていた。
何かが燃えた跡どころか、人がいた気配すらない。そこにいるのは呆気にとられた顔の僕だけだった。
燃えている人たち @akaharatamori
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