恋人たちの四次元密室
我道瑞大
恋人たちの四次元密室
「あ、やばい。これ、鍵が違うよ」
その一言で暢気な空気が一変した。旧校舎の木造建築が、急に不穏な気配に包まれる。
「早くしないと『双子地球』の最終回、始まっちゃうよ」
「そんなに心配すんなって大丈夫だから」
心配そうなサヤに、拓人はあくまで気楽な様子で答えていた。
「ねえ拓ちゃん。鍵はちゃんとあるんだよね?」
「多分……。部屋のどこかに。探せばあると思うけど」
「鍵で思い出したんだけど、この前私があげた宝物、ちゃんとまだ持ってる?」
「ギクっ!」思わず拓人は変な声を出してしまった。
「拓ちゃんは、すぐ物をなくすよね」
そう言うと、サヤは膨れて見せた。
「って、ほら、サヤにだって苦手なものはあるだろ?」
「暗いの苦手~」
「電気、来てないみたいだしな。日が沈んだら、相当真っ暗になるだろうな。東向きだし」
「やだ、いつの間にかほとんど真っ暗じゃない」
「ああ、そういえば、サヤって小さい頃から暗いのだけは苦手だったな。幽霊とかは全然平気なのにさ」
「うん」
「怖かったら俺の腕に掴まってろよ」
「うん、平気」
「何があっても俺がお前を守るから」
それは、本当に本心からの言葉だった。
「やっぱりあたし、拓ちゃんのこと大好き」
今にも消え入りそうな明かりの中、二人は唇を重ねた。
見つめ合う。
「でもあたし、拓ちゃんとならこのまま出られなくったっていいかも」
「馬鹿なこというなよ」
「ホントだってば」
「はは」
つかの間、二人の間に沈黙が訪れる。
「あっ、ちょっと見て拓ちゃん。火事の痕! そう言えばさ、この旧校舎が立ち入り禁止になってるのって、ずっと前に火事にあってそのままだからなんだって。そのとき、生徒二人がどっかの部屋に閉じ込められて、焼け死んだらしいよ。しかも、それ以来、恋人同士が二人っきりでここの校舎の『ある部屋』に入ると、どこからともなく、あつい~、開けてくれ~、って声が聞こえるんだって」
「それ、さっきも似たようなこと言ってたよな」
「ホントだって」
「で、『あの部屋』ってここのことだったんだ~、って言うんだろ?」
「あん、もう、すぐそうやって馬鹿にするんだから。でも、ホントは怖いんでしょ? 拓ちゃん、霊感関係って苦手だもんね。幽霊とか、予知夢とか」
「はは、何それ。ありえないって」
それを聞いて、顔が意地悪く歪んだ。
「あのね、昨日あたし、夢を見たんだけどさ、その中で、あたし、拓ちゃんと二人っきりでどこかの部屋から出られなくなったの。最後はあたしが鍵を見つけたんだけど、どう思う? あれって予知夢なのかな?」
「え、マジで?」
「ほら、ここだよ。鍵あったの」
拓人の目が驚きに見開かれ、サヤは満足げに微笑んだ。
「あっ、鍵だ」
拓人の目が驚きに見開かれ、サヤは満足げに微笑んだ。
「ほら、ここだよ。鍵あったの」
「え、マジで?」
「あのね、昨日あたし、夢を見たんだけどさ、その中で、あたし、拓ちゃんと二人っきりでどこかの部屋から出られなくなったの。最後はあたしが鍵を見つけたんだけど、どう思う? あれって予知夢なのかな?」
それを聞いて、顔が意地悪く歪んだ。
「はは、何それ。ありえないって」
「あん、もう、すぐそうやって馬鹿にするんだから。でも、ホントは怖いんでしょ? 拓ちゃん、霊感関係って苦手だもんね。幽霊とか、予知夢とか」
「で、『あの部屋』ってここのことだったんだ~、って言うんだろ?」
「ホントだって」
「それ、さっきも似たようなこと言ってたよな」
「あっ、ちょっと見て拓ちゃん。火事の痕! そう言えばさ、この旧校舎が立ち入り禁止になってるのって、ずっと前に火事にあってそのままだからなんだって。そのとき、生徒二人がどっかの部屋に閉じ込められて、焼け死んだらしいよ。しかも、それ以来、恋人同士が二人っきりでここの校舎の『ある部屋』に入ると、どこからともなく、あつい~、開けてくれ~、って声が聞こえるんだって」
つかの間、二人の間に沈黙が訪れる。
「はは」
「ホントだってば」
「馬鹿なこというなよ」
「でもあたし、拓ちゃんとならこのまま出られなくったっていいかも」
見つめ合う。
今にも消え入りそうな明かりの中、二人は唇を重ねた。
「やっぱりあたし、拓ちゃんのこと大好き」
それは、本当に本心からの言葉だった。
「何があっても俺がお前を守るから」
「うん、平気」
「怖かったら俺の腕に掴まってろよ」
「うん」
「ああ、そういえば、サヤって小さい頃から暗いのだけは苦手だったな。幽霊とかは全然平気なのにさ」
「やだ、いつの間にかほとんど真っ暗じゃない」
「電気、来てないみたいだしな。日が沈んだら、相当真っ暗になるだろうな。東向きだし」
「暗いの苦手~」
「って、ほら、サヤにだって苦手なものはあるだろ?」
そう言うと、サヤは膨れて見せた。
「拓ちゃんは、すぐ物をなくすよね」
「ギクっ!」思わず拓人は変な声を出してしまった。
「鍵で思い出したんだけど、この前私があげた宝物、ちゃんとまだ持ってる?」
「多分……。部屋のどこかに。探せばあると思うけど」
「ねえ拓ちゃん。鍵はちゃんとあるんだよね?」
心配そうなサヤに、拓人はあくまで気楽な様子で答えていた。
「そんなに心配すんなって大丈夫だから」
「早くしないと『双子地球』の最終回、始まっちゃうよ」
その一言で暢気な空気が一変した。旧校舎の木造建築が、急に不穏な気配に包まれる。
「あ、やばい。これ、鍵が違うよ」
恋人たちの四次元密室 我道瑞大 @carl
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます