ヒーロー5 ぬりかべ

貧血なのか、現実なのか。

前方から広まった暗黒に完全に包まれた。


電動バイクに乗ったまま目を凝らす。

橋の上なので無闇に突っ走るのを躊躇し、

路肩だった辺りに停止した。


里見「乙姫ー」

呼んでも返事が無い。


ブルル

里見「!」


突然スマホが震えた。

狛ちゃんスマホを見ると電波もGPSも圏外になっている。


里見「狛ちゃん、、」


『オフラインです』

犬坂に電話、と言いたかったが機械的な返事が孤立した事を告げた。


スマホを持つ手が震えている。

自然とポケットの令和の剣を握った。


一度自覚してしまった恐怖が増大するのを感じる。

パニックになる前にビームを発振して照明代わりに掲げた。


真っ暗闇だが無重力ではないし、震えながらも呼吸は出来ている。

恐ろしい何かがどこから襲ってこようが対処できる。

根拠は無いが自信をみなぎらせるように必死で自己暗示を掛けた。

冷静な思考をする。


とりあえず道しるべ代わりに地面を突いてみた。

アスファルトに穴が開く。


殺傷モードを使った事、オフライン、それらがトリガーとなって、

電動バイクが犬型ロボットに変形した。


里見は電動バイクが妖怪にでもなったかと思った。


狛ちゃん『里見発見』


里見「狛ちゃんか?」


狛ちゃん『へいよう』


それは犬坂が開発した狛ちゃん戦闘用の体だった。

一応孤独ではない事が恐怖の震えを武者震いに変える。


里見「珠は?」


狛ちゃん『有るよう』


ならば応援が来るかもしれない。

落ち着き始めた途端、ゆっくり周りが見え始めた。

橋の上の景色が広がり、元通りになった。


息苦しさと緊張から少し解放されたが、乙姫が居ない。

今夜一番ゾッとした。


里見「乙姫ー」

震える声で呼んでみる。


狛ちゃん『狛ちゃんです』


ブルルルル

犬神から電話が掛かってきた。


犬神「無事ですか?」


里見「乙姫が!」

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