2-3 漆黒砂漠の探検家(3)

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現在のステータス


リヒト、レヴィア  前回より経験点+4500点 4回成長 +8000G 名誉点+80点

エディン、ゴードン 前回より経験点+3000点 3回成長 +6000G 名誉点+60点


リヒト  HP:31 MP:26 ファイターLv5 ソーサラーLv3 エンハンサーLv1

  魔力撃、防具習熟(非金属鎧)A、武器習熟(ソード)A


レヴィア HP:28 MP:26 シューターLv5 マギテックLv3 スカウトLv3

     精密射撃、武器習熟A(ガン)、鷹の目


エディン HP:31 MP:36 プリースト(クス)Lv5 セージLv3 ウォーリーダーLv3 アルケミストLv1

  魔法誘導、魔法拡大/数、防具習熟(非金属鎧)A


ゴードン HP:45 MP:23 ファイターLv5 レンジャーLv3 エンハンサーLv3

     かばうⅡ、防具習熟(金属鎧)A、頑強


【現在の依頼】 リリア・ナバロおよび同行者3名の救出 成功報酬3500G

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 冒険者60名にラクダ60頭が揃えば、なかなか壮観ではある。

 総隊長を務めるのは、ヴィトーという名のタビット。後ろ姿は他のタビット同様かわいらしいが、正面から見ると鋭い眼光を放っている。凄腕の銃士で、かつてはある盗賊ギルドの一員だったとも聞くが……


「でもさー、あの魔航船で助けに行けばいいんじゃないの?こんなにお金かけなくったってさ」

 タカナの物見塔に係留されたままの魔航船を指さして、レヴィアが言った。

 エディンはリヒトがラクダに乗り込むのを助けながら、言った。

「単なる故障による墜落、とかならまだいいんですが。別の可能性もあるでしょう」

「……撃墜とか?」

 リヒトが首をかしげた。

「撃墜って、アンデッドが?」

「ドゥーム系統の暴走魔動機という可能性もありますよ」

「ドゥームか。あいつら、大型のガンを装備してるからな……」

 ゴードンは顔をしかめる。防御力を無視したダメージを与えてくるドゥームは、回避を考えずに防御力で攻撃を受け止める重戦士にとっては天敵だ。

「飛行可能なエアロドゥームなんてのも居ますからね」

「その辺まで出てきたら俺たちには手に負えねえだろ……」

「お前たち、無駄話をしている場合か?夜が明けるぞ」

 いつの間に近くに来ていたのか、ヴィトーの低い声が響いた。ゴードンは肩をすくめる。

「へいへい、了解」




 ふらふらと、足取りは頼りない。しかし、目指す方向ははっきりとしている。


「大歓迎だな」

 ゴードンがラクダから降りて、得物を構えた。

 こちらにまっすぐ向かってくるのは、ピルクス市民のなれの果てであろう、スケルトンにレブナント。それがおおよそ30体。

 いくら低級アンデッドとは言え、これだけ居れば一党パーティでは苦戦は免れないだろう。しかし、今回は物量が違った。


「落ち着いて対処しろ。まずは術士銃士で撃ち減らす。神官は撃たなくていい」

 ヴィトーがランカスターⅡを構える。

「これだけ居ると、適当に撃っても当たりそうよね」

 レヴィアもテンペストⅡを構える。

 タビットはジト目でレヴィアを一にらみした。

「無駄弾は撃つなよ?撃ち方はじめ」

 銃弾と攻撃魔法がアンデッドに飛んでいくのに合わせて、エディンは鼓咆を放った。

 すかさず、ゴードンやカリオペが敵に突っ込んでいく。数を減らしたアンデッドは前衛の壁を突破することはできず、そのまま武器攻撃で始末された。

 第一日の夜は、問題なく明けるかと思われたのだが。


 

「何だって!?」

 テントからヴィトーの大きな声が上がったのは、そろそろ東のザド山脈から太陽が昇ろうか、という頃だった。

 テントを設営し終わり、休息の準備に入っていた一同は、顔を見合わせた。


「むう……そうか、ん、わかった。続行だな」 

 しばらくして、ヴィトーがテントから出てきた。

「いかがなさいました?」

「いや、依頼人クライアントからの定時連絡を受けていたんだが……」

 ヴィトーはエディンや他の隊員たちを見回しながら、言った。


「ターゲットが救出を拒否した」

「はい?」

「『自分たちは無事だ、そのうち自力で帰るから救助はいらない』と通話のピアスで連絡してきたそうだ」

「ふうむ……まあ、全くあり得ないわけではないですが」

 魔航船には万一に備えて水や食料を積んでいただろうし、ラクダを彫像化して持ち込んでいれば、魔航船が修理不能でも乗って戻ってこれるかもしれない。

「お嬢ちゃん、愛読者としてはどう思うね?」

「そうねぇ……」

 ゴードンに話を振られて、レヴィアは口を開いた。

「イリア先生は常に用意周到、準備万全にして行く人よ」

「自力で帰れる備えをしていたということですかね」

「でも、これだけ大勢の人が既に動いちゃってるところに、『私は大丈夫だから帰れ』って言っちゃう人じゃなさそうなのよね」

「ふうむ……と、なると」

 エディンは、ヴィトーの方を向いた。


「別の可能性を考慮しなくてはいけないかもしれませんね」

「別の可能性って、なんだい?」

 カリオペが口を挟んだ。

「何者かに拘束されている可能性です」

「アンデッドが拘束なんてするかね?」

「高位のアンデッドなら、高い知能を持っていることもありますよ。それに、アンデッドではない可能性もあります」

「おいおい、蛮族か人族だっていうのかい?漆黒の砂漠のど真ん中だよ?」

「可能性なら、どんなことでもありえます。第一……」

 ヴィトーが渋い声で続けた。

「俺たちが今から行く」

「そりゃそうだがね……」

「まあ、アンデッドや魔動機の他に何者かがいる、という可能性を考慮しても良いのでは」

「クライアントも、それに思い当たったようだ」

 ヴィトーは、腰に差した愛銃をなでながら言った。

「やることは変わっていない」



 ロドリゴの指示通りの座標を求めて3日目の未明。

 砂の中から幾つもののビルがそそり立っている地域にやって来た。古地図によれば、商業地として栄えていた街区だ。ピルクス周辺全ての建造物が毒砂になったわけではないらしく、このような場所は他にいくつもある。

「物陰が多いな」

 いかにも、誰かが隠れていますと言わんばかりの環境だ。


 ヴィトーは塔の谷間を見やった。

「座標はあの中だがな……」

「ここまで来て、引き返すわけにもいかないんじゃないかい?」

「そうよ、ねえ?」

 カリオペとレヴィアは乗り気であった。

 エディンも、片手をひらひらさせながら言った。

「やることは変わっていない、だったのでは?」

「ふん」

 蛮族の代わりにアンデッドやドゥームが潜んでいたとて、同じ事。

「危なくなったらすぐに退け。いいな?」

 ヴィトーは釘を刺した。生還こそが冒険者の最優先である。全滅しては失敗したと言うことさえ伝えられない。

「言うまでもねえな」

「うん……」

 ゴードンとリヒトが同意した。 



 塔と塔の間は、馬車が並んで余裕ですれ違えるほどの道幅がある。かつては、この間を大勢の人々が行き交っていたのだろう。


「これだけ広いなら、不意打ちもしにくいかな」

「広いと大勢で戦いやすいというのもありますが……」

 セリムとエディンが声を交わす。

 すると、ヴィトーの足が止まった。

「む」

「ヴィトーさん、何か?」

「これは……」

 危険を察知する能力において、タビットの右に出る者は居ない。ヴィトーは耳をぴくぴくさせてせわしく周囲を見回した。

「いや……上だ!」


 人間ぐらいの大きさの塊が6つ、上から落下してくる。

 どすん、と石畳の上に落ち、ゆっくりと上げた頭は、アリだった。羽が生えているので、羽アリか。それが6人。


「フォルミカか!?」

「フォルミカに羽アリはいなかったはずですが」

 フォルミカはアリを模して作られたとされるバルバロスである。アリ同様女王アリ働きアリなどの階級が存在するが、エディンの知る限り、羽アリは存在しないはずだ。



『戦闘開始!』

アリの一人が叫んだ。

「魔動機文明語を話していますね」

「魔動機文明かぶれのフォルミカか!?」

「まあ、アンドロスコーピオンは魔動機術の利用に長けていますが」

 エディンは首をひねった。それにしたって、通常の同族の会話はフォルミカ語でするはずだが。


『ピルクスのために!』

『侵入者を打ち払え!!』

 アリの一人が布の付いた棒を高く掲げる。


「まだ来る!横に散れ!」

 ヴィトーの叫びと共に、上から大きな石塊が何個も落ちてくる。

 そればかりではなく、周囲の塔や物陰から、一斉に人間大のアリがわらわらと湧き出してきた。

「これはまずいですねぇ」

「嬢ちゃん、エディン、こっちだ!」

 ゴードンが斧を振り上げた。

 前衛で壁を作る間もなく、アリたちに分断されてしまう。


「援護する!各隊、なんとか撤退しろ!!」

 ヴィトーが引き金を引くと、アリの一人が断末魔を上げて転がる。

 すると、ぽとり、と倒れたアリの羽が落ちた。

「なーんだ、あれただの飾り?」

 レヴィアが言うと、リヒトが首をかしげた。

「リトルウィング……かな?」

 背中に装着していると落下の衝撃を和らげてくれる魔動機文明製の装飾品である。舞い降りてきた、のではなく飛び降りてきたのか。

「ずいぶん魔動機文明にご執心じゃないかい」

 それにつけても、アリの数が多すぎた。

 冒険者各隊がバラバラに撤退……もとい敗走を始めた。


 リヒトとセリムを前に行かせ、エディンとレヴィアを挟む形でゴードンとカリオペが得物を振り回しながら殿を守る。


「ったく、フォルミカどもも毒砂は効くんじゃないのか?」

「フォルミカソルジャーにしては、脆い気はするんですが……」

 魔物として知られるフォルミカの歩兵、ソルジャーは4本の腕で2つの武器を操る強敵だ。 

 しかし、今目の前に居るフォルミカ(仮)はそこまで強いようには見えない。せいぜい素のボガードやらレッサーオーガぐらいで、同数で戦えばこちらが有利に持って行けそうなくらいだ。

 問題は、やたらと数で圧倒してくるというところか。



「ううっ、マジでやばくない?」

「うにゅ……」

「嘆く余裕があるなら何よりです」

 エディンは努めて明るい調子で言った。

「次の角まで進めば……」

 あいにく、今日の神々は信徒に試練を与えたがっているようで。

 今最も会いたくない顔がひょこひょこと顔を出してくるのだった。まさしく挟み撃ちという形になる。

「あいつら何人居るのよ!?」

「わりとぶち倒したはずなんだがねぇ!」

「畜生、誰かでっかい蟻地獄を呼んでこい!」


「『エネルギー・ボルト!』」

 攻撃魔法の雨が、不意に、アリたちに突き刺さる。致命傷までとは行かずとも、怯ませるに十分な威力だった。


「へ?」

「一体誰が……」


「みなさん、こちらです!」

 聞き覚えのある声だった。

 杖を持ったまま手を振っているのはフロウライトの魔法使い、ニフリートだった。


「ニフリート!?あいつ、里帰りしたんじゃなかったのかい」

「『地元』がここだったのかな……」

 カリオペとセリムは困惑気味に顔を見合わせた。

「早く!こちらへ!!」

 ニフリートは必死に両腕を振って促した。

 その周りには一人の少女に、5,6人ほどの人族らしき兵士がいる。ただ、不可解なことに

「ねえ、あいつらアリが化けてるんじゃない?」

 目ざとく不審点を見つけたレヴィアが疑念を呈した。

 ラミアやオーガのように、人間に化けられるバルバロスは少なくない。

「……フォルミカって人化するっけ?」

「するかもしれないじゃない!」

「事情は後で説明いたします!」

 ニフリートは哀願するように手をぶんぶん振り続ける。

 周りの兵士たちは、『エネルギー・ボルト』を再度撃つ。ただしそれはエディンたちを飛び越え、背後のアリに刺さった。


「大将、どうするよ?」

 ゴードンはエディンに判断を求めた。

「行きましょう。罠なら、そのまま僕たちを撃つ方がてっとり早いです」

 大体今の時点で追い詰められているのだ。この上で罠にかける意味が無い。

「ええくそ、お前の判断に張るぞ!」

「あたしも乗るよ!」

「罠だったらそのとき、だね」

 セリムが肩をすくめる。 

「ん、行こ」

「……んもう、どうなっても知らないわよ!」


「こちらです、さあ、早く」

 ニフリートは塔の奥に一行を誘った。入るとすぐに下り階段になる。

 ゴードンがニフリートと少女の後ろを歩き、カリオペが背後に気を配りながら殿を進む。他の兵たちは少し遅れて付いてきているようだった。


 暗い大きな部屋に出た。

「ひとまず、ここまでくれば大丈夫でしょうか」

 ニフリートが壁の一部に触れると、天井が明るくなる。魔動機の照明だろうか。


「ニフリート」

 据わった目でレヴィアが銃を突きつけた。

「説明してもらうわよ」

「お、お待ちを!!私はスパイではございません!!」

「だったら何だって言うのよ!?」

「レヴィア、落ち着いて」

 今にも引き金を引きそうなレヴィアを、リヒトが抑えた。

 

「待ってください」

 少女は、部屋の入り口に立っている兵たちを見やった。

「シモーヌ姉様、ダヴィド兄様、武器を捨ててください」

「お、おいちょっと待」

「ほら、捨てる捨てる」

 シモーヌと思しき兵の指示で、ダヴィドら他の兵も武器を捨てる。


 すると、少女はレヴィアに向かって両手を差し出す。手の甲と手のひらを見せて、何も持っていないことを示した。

「……あなた」

「私が人質になります。これで話を聞いていただけますか?」

「……わかったわ」

 レヴィアはしぶしぶ銃を下ろした。

「レヴィア・シューマッハよ。あなたは?」


「“ピルクスの末姫”セシル・ド・ラマルク・ラ・フォルトゥーナです」

 セシルと名乗った少女は、一拍息を吸い込むと、顔をほころばせた。 

「ピルクスへようこそ」


(つづく)

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