≪人蛮の境界都市テルミナ≫

 テルミナは、ザクソン海南東部に浮かぶユーゼド=ボリン諸島のユーゼド島南部に位置する都市国家です。

 他のザルツ諸国にはない特異な点として、蛮族(バルバロス)を市民として公に認めています。そのため、周辺諸国からは常に警戒されていますが、人族社会に受け入れられず、かと言って蛮族社会にも馴染めない一部の者たちにとっては、数少ない希望の地であり、20年の間に急激に成長を遂げました。 


 「テルミナの法と秩序に従う者は、すべてテルミナの市民である」――テルミナ建国宣言より抜粋



■歴史

 ユーゼド=ボリン諸島は、魔動機文明後期にはダーレスブルグ王国の領土であり、ペーネムン国防研究所の管理区域でした。<大破局>が発生した後、ユーゼド=ボリン諸島の東側にある大都市ピルクスが蛮族の攻撃の影響で毒砂化、漆黒の砂漠となると、その余波を受けて島は壊滅しました。その後徐々に自然が回復していき、23年前の時点ではすでに島は森に覆われていました。

 この当時には、すでに漆黒の砂漠の毒砂の影響はユーゼド=ボリン諸島近海では弱まっていたのですが、毒砂の汚染の印象は強烈で、近寄る船はありませんでした。ルキスラ帝国アルドレアからローラ河を下ってロシレッタ、ダーレスブルグに至る航路もザクソン海の南西側を通り、この海域に近づく必然性は無かったのです。

 23年前(大陸新暦285年)、冒険者ネリス・ヘルシェルをリーダーとする一党が島に到達し、ペーネムン国防研究所遺跡を探索して名声を得ました。その後、ダグニア地方のダノス海和平工作に挫折すると、20年前(288年)、ネリスはユーゼド島南部にテルミナ市を建設したのです。

 これに対して大いに反発したのはダーレスブルグ公国でした。(当時、ルキスラ帝国は衰退しており、勢いを取り戻すのは303年の現皇帝ユリウス即位からになります)ユーゼド=ボリン諸島は旧ダーレスブルグ王国領であり、しかも蛮族を受け入れると公言して憚らない姿勢が、北方遠征を開始したばかりのダーレスブルグを刺激したのです。

しかし、公国軍主力はすでに遠征に向かっており、しかも遠征はジーズドルフの目前で撤退に追い込まれます。公国軍は獲得したばかりのエイギア地方を防衛することにかかりきりになり、テルミナはダーレスブルグの直接侵攻を免れます。とは言え、ダーレスブルグもそれではおさまらなかったため冒険者部隊を組織し、ユーゼド島に送り込みました。

 当時テルミナ市自体は街壁も完成していなかったのですが、ペーネムン国防研究所遺跡から発掘した多数のドゥームを防衛用に展開。当時住民のほとんどが冒険者だったテルミナは文字通りの市民皆兵であり、ダーレスブルグの冒険者部隊を壊滅させ、捕虜としました。ネリスは人脈を駆使してロシレッタの商業界とフェンディル王国を動かし、講和に持ち込みます。

 ダーレスブルグに対して一歩も引かなかったテルミナの名声は高まり、ナイトメアやウィークリング、ラルヴァなど人族社会で肩身の狭い思いをしている人々がザルツ地方のみならず、テラスティア大陸の各地から集まってくるようになりました。

 その後、霧の街ジーズドルフ配下の蛮族軍の襲撃をたびたび受けており、中でも大規模な二度の攻勢では全市動員を行いました。(最初の全市動員はダーレスブルグの冒険者隊の攻撃に対してのものになります)


■地理

 テルミナ市はユーゼド島南東部の湾に面しています。街は強固な街壁で囲まれ、郊外の小高い丘にあるヘルシェル家の館は街壁から延長された城壁を持ち、ささやかな城塞となっています。

 街の北東には魔晶石鉱山があり、テルミナ政府の重要な収入源になっています。南側の半島部には農地と牧場が広がり、北西側には深い森が広がっています。

 町の西にはペーネムン国防研究所の遺跡があります。遺跡からは魔動兵器はもちろん、数々の魔動機が発掘されました。

 テルミナ市本体の人口は6000人ほど。ユーゼド島北部のフィデス、ボリン島のピウスなどの集落を含めると、全島の総人口は1万2000人ほどになります。


■政治

 8人の議員と1人の議長によって構成されるテルミナ市評議会が政治を担っています。評議会議員はネリス・ヘルシェル評議会議長の指名する3人の指名議員と、5人の民選議員からなります。民選議員は4年に一度の選挙で選出され、3期まで務めることができます。参政権はテルミナに住民登録し、納税している成人(当然のことながら種族によって異なります)に与えられています。議長は選挙結果から、種族の偏りを考慮して指名議員を選ぶ傾向にあります。

 評議会議員は予算および法律の制定・改廃を審議します。また、重要な政治的決定についても審議を求められます。

 このように少なくとも形式上は共和政体になっていますが、評議会議長その人がテルミナの創設者でもあることから権力と権威を兼ね備えており、事実上の君主国であるとも言われています。 

 

■重要施設

☆クス神殿

 カルディア系統の女神クスを奉る神殿です。ネリス・ヘルシェル一行の一人がクス神官だったため、テルミナ最大の神殿になっています。

 クス神に神格を与えたキルヒア神も重要な神として祀っており、テルミナ市とフィデス、ピウスなどに初等教育のための学院を運営しています。


☆港湾区

 ロシレッタ、ダーレスブルグ、アルドレア間の貿易船の寄港地、並びに霧の街ジーズドルフの豪商ザバールとの交易拠点になっています。船乗りたち相手の酒場、色街も盛んで、テルミナの貴重な収入源になっています。


☆職人街

 高い鍛冶技術を持ったダークドワーフたちの武具工房が特に有名です。その他にも、魔動機復元に長けたガルドナ工房が近年業績を上げています。


☆タカナ半島租借地

 ユーゼド=ボリン諸島の南東にある、漆黒の砂漠から海に突き出た半島です。

 漆黒の砂漠に挑戦する冒険者への便宜を図る目的で集落が作られ、テルミナから物資の供給が行われています。

 外交紛争の結果、『ダーレスブルグ公国からの租借地』という名目で落ち着きました。

 主に夜に活動するという漆黒の砂漠のライフスタイルに合わせ、真夜中でも煌々と明かりが灯っています。

 漆黒の砂漠が乾期に入ると、ほとんどの住民や冒険者はテルミナや他所へ帰ってしまい、静かな場所になります。

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