魔法使いウーファイアの伝説
彩霞
前編 魔法使いウーファイア
昔々、小さな村にウーファイアという魔法使いがおりました。
ウーファイアは女性だったので、皆は「ウーファイア」と呼んだり「魔女さん」と呼んでいました。
魔法使いは、天気を予想することが主な仕事ですが、その他にもまじないをしたり、出産を手伝ったり、お葬式をしたり、そういうこともしていました。
そしてウーファイアはとても優秀な魔女だったので、村の人々はとても助かっていました。彼女は天気をぴたりと当てますし、まじないを持って行った旅人は、必ず無事に帰って来ました。また彼女が手伝った出産は、赤ちゃんが全員無事に生まれましたし、お葬式では亡くなった人の家族に笑顔が早く戻りました。
ウーファイアは物静かで人の話をよく聞き、思慮深い女性でした。村の人々は皆、彼女のことが大好きで、大切な仲間でした。
あるとき、ウーファイアは村の人々に言いました。
「これからひと月、北の山の麓に行かないでください」
村の人々は首を傾げました。
「どうしてですか。あそこでは山菜をとって来なくてはならないのですよ」
するとウーファイアは言いました。
「近いうちに、大地が揺れる日が来るでしょう。そうしたら、北の山の土砂が流れ生き埋めになってしまいます。お願いです。ひと月だけお待ちください」
ウーファイアが珍しく熱心に村の人々に頼み込むので、彼らは納得しました。大地が揺れるなんて聞いたことがありませんでしたが、ウーファイアの言うことはきっとまた当たるだろうと思い、それに従いました。
するとその二週間後、大地が大きく揺れました。とんでもない大きな揺れで、ウーファイアが予言した通り、山から土砂が流れました。もしその近くにいたら、きっと命はなかったことでしょう。
ウーファイアの予想が見事にあたり、村の人々は彼女に感謝しました。そしてますます彼女は、村の中で大切な存在になりました。
しかしその二週間後、離れたところにある村から、三人の使者が現れました。彼らは真っ白い衣装を身にまとい、村長に言いました。
「ここにいる、優秀な魔法使いを貸してもらいたい」
優秀な魔法使いとは、ウーファイアのことでした。村の人々は大地が揺れた日に被害がなかったことを喜んでいたのですが、それが他の村にも伝わっていたのです。そして、それを予言した魔法使いがいることも。
「それは無理な話だ」
村長は言いました。
「私たちの魔法使いは、私たちのものだ。他の村に貸すことなどできない」
しかし、使者の人は声を荒げて言いました。
「自分たちが助かったからといって、それでいいと思っているのか!」
村長は使者の荒々しい声に驚いて、身を引きながらも聞き返しました。
「な、何を言っているんだ……! 君たちは!」
すると使者は手をわなわなと震わせながら、その理由を打ち明けました。
「我々の村は、先の大地の揺れで多くの者を失ったのです! 山から土砂が崩れ、村の半分近くの者が亡くなってしまった! そのため、これからどうしたらいいのか、こちらの魔法使いに指導願いたいのです!」
使者の話を聞いて、村の人々は顔を見合わせました。村の半分の人が災害にあったというのは、さすがに心が痛みました。
「あなた方の村にいる魔法使いは、それを予言してはくれなかったのですか?」
村長が尋ねると、使者は首を横に振りました。
「してくれませんでした。魔法使いは天気は予想しますが、大地のことは予測しません。それに、先の大地の揺れでその魔法使いも巻き込まれて亡くなってます」
魔法使いはどの村にもいます。それは彼らが村人が生きるのに重要な知恵をもっているからです。しかし魔法使いも人の子。得意なこともあれば、苦手なこともあるのです。
そこまで話を聞くと、村長はウーファイアを呼びました。
「……ウーファイア」
ウーファイアは村の人々の間を分け入って、村長と使者の前に姿を現しました。
「はい」
「話は聞いていたね?」
「……はい」
「君はとても大切な、この村の魔法使いだ。だが、あちらの村が困っているという。助けてくれるだろうか?」
ウーファイアは少し考えた後、「村長の頼みなら」と言って承諾しました。本当は行きたくなかったのですが、使者の人の話を聞いて断るわけにはいかないと思いました。
それからウーファイアは村の人々に、暫しの別れを告げて使者の住む村へと旅に出ることになりました。
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